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2024-12-04 21:03:46 +09:00

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革探しの旅Ⅴ:革靴編 2024-12-04T17:36:17+09:00 false
diary

前回の外伝的前日譚。観ていない人も多いので話が合わせづらいやつ。身につける位置こそ違えど鞄と靴には大きな関連性がある。クラシックな革鞄を選んでギラギラのランニングシューズを履くと、一般にトータルコーディネートの難易度は飛躍的に高まる。同様に、スポーティなリュックを選んでピカピカのドレスシューズを履くのはかなり困難だ。

逆に、鞄と靴の意匠とカラーリングが合っているともうほとんど完成形に近い。なにも手がかりがない中から探るよりも、絶対に譲れないアイテムを前提にセットアップを組む方がファッションでもゲームでも効率的にビルドを構築できる。上級者向けと見せかけて実は手堅い戦略なのだ。

もっともこれは僕が何年も惰性で履き古した靴を総入れ替えするための方便に過ぎない。なにしろ鞄と同じく靴も一、二足では用を足しきれず、シチュエーションに備えて何足も揃えておかなければならない。そんなわけで秋口から今まで僕はずっと、様々な店で革靴を物色していた。

まず一足目はストレートチップである。ストレートチップとはドレスシューズの甲に直線が入ったデザインのことで、数ある中で特にフォーマルなスタイルに適しているとされる。フォーマルだからすわスーツ専用かと思いきや、近年ではカジュアル履きもだいぶ検討されてきており、革靴ブランドの直営店でも自社製品と合わせて軽めの服装をしている店員をよく見かける。

僕が買った靴は上記画像のスコッチグレインのオデッサから、革を国産、靴底をゴムに換えて作られた限定企画品だ。ヨーロピアンレザーにさほど思い入れがなく、地面の湿り気に囚われず履き込みたい人にはむしろ優良と言える。伝統志向の革靴は底も革でできているゆえ滑りやすく、湿った地面に触れると革底から水分が染みるリスクがある。つまり、二日続けて晴れていないと履けない。

むろん、革の靴底はたいへん見栄えがよく高級感に長けているのだが、僕としては日常の実用性も外せず上記の選択に収まった。しかしながら足の実寸が24.7cmなのに、革の延びを想定して24.5cmを購入したせいでここ数週間は小指がちぎれそうなほど痛い。最近、僕と会った人は奇怪な歩き方をしていると思ったに違いない。だがこれはシンデレラフィットする革靴を手に入れるためには決して欠かせないステップなのだ。

僕が買ったのは色が明るいモデルなので冠婚葬祭のうち葬には使えないとはいえ、ストレートチップはあらゆるフォーマルファッションに適合する。グッドイヤーウェルト製法の靴――靴底が接着剤ではなく細い革で縫い合わせてある――は始めてだが、そのクラシカルな履き心地はいかにも高貴な雰囲気を楽しませてくれる。

次に、二足目はホールカットである。ホールカットとは一枚の革で構成された継ぎ目のないドレスシューズを指す。つま先に装飾のない革靴をプレーントゥと言うが、それよりもさらにミニマルなスタイルとなる。フォーマルさの位置づけとしてはストレートチップの次点に来るとされる。

こうした靴を目の当たりにした際に意識させられるのは、たかが線一本、あるいは二本減っただけで全体の印象のがらりと変わってしまうところだ。まさしく神は細部に宿る。あたかも審美観を侵襲されたかのような畏敬に近い感覚が沸き起こる。当初は買う予定になかったのにもかかわらず、気づいたら検討に入っていた。

先のストレートチップと同様にゴム底のものを探すと、リーガルの直営店限定モデルが見つかった。ドレッシーな製法にこだわるスコッチグレインとは対照的に、明治時代の軍靴製造にルーツを持つリーガルには機能的な製品が多い。手入れがほぼ不要なガラスレザーや、特殊機能を持つ高性能ソールの採用は伝統派からはしばしば冷笑されるが、これはこれで工学の美だと僕は思う。

今回選んだモデルもグリップ力に長けた高性能ソールに加えてゴアテックスを内部に採用している。さすがにどしゃぶりの雨となると対処しきれないようだが、雲行きが怪しい日でも安心してドレスシューズを楽しめるという点では、さながらフランス製の武器に似た優雅な堅牢性を連想させる。

続いて、三足目はUチップである。文字通りつま先がU字型に縫い込まれている靴を指す。モカシンと呼ぶ方が一般的かもしれない。フォーマルさの位置づけとしてはもっともカジュアル寄りとされる。それゆえデニムパンツと合わせてもよく適合する上に、スニーカーよりは格段にエレガントな外観からフォーマルファッションとの相性も良い。このように、あまりにも万能なのでメインの革靴はこれしか持っていない人も少なくない。

僕が目をつけたのは上記画像に映っているスコッチグレインのチロリアンだ。Uチップと言っても靴の形状は様々だが、どうせカジュアルに振るなら大きく違いを設ける方が使い分けしやすい。ただでさえストレートチップにホールカットと典型的なロングーズのスタイルが連続しているので、キャラクターを変えるのは妥当な試みだ。

とりわけUチップは非常に種類が豊富でロングーズからローファー、果てはブーツに至るまで数多の靴がUチップのカテゴリに収まってしまう。その中であえて意表を突くデザインを志向すると独特なフォルムを備えたチロリアンが有力な選択肢に挙がってくる。

とはいえ、この選択は一番難しかった。どのUチップが自分に最適なのか毎日考えて眠り、起きて暮らし、ついにはいつでも頭の中に靴の先端が描画されるに至った。つま先のたった数センチのために僕の美意識が総動員されている。冷静に考えるとおかしい。だが、おかしいからこそ取り組み甲斐がある。およそ誰も気にしないであろう足元に、ごく限られた人間だけが弛まぬ熱意を込めているのだ。

最後に、四足目は――まだあるのか?――ワークブーツである。今までに挙げた靴はどれもドレスシューズで、ウォーキングや野外作業などのアウトドアシーンには明らかに向いていない。そこで、遍く用途に適応するワイルドカード的な革靴がおのずと要請される。

そうした使い道ではローカットシューズよりも、ホールド感と強靭性を重視したブーツの方が望ましい。いわゆるワークブーツだ。革のワークブーツがあれば、それなりにファッショナブルであり同時に実用性をも満たすことができる。たとえばレッドウィングはその分野において一世紀以上にわたり王者の地位を占めている。

確かにレッドウィングは良い……が、上に挙げた用途では「良すぎる」感じがする。レッドウィングはドレスシューズではないが、本格的なドレスシューズ並に高価で防水仕様でもない。自社鞣しのオイルレザー一点張りで勝負という昔ながらの西部劇スタイルで戦っている。なので浸水するかしないかで言えば普通にするし、順当にボロボロになっていく。

これはドレスシューズが経年変化で「味が出る」というのは違う。本当にボロボロになるように使うのがレッドウィングの美学なのだ。しかし僕の性格では、おそらくそのような使い方はできずになんだかんだで大事に扱ってしまうだろう。それではワークブーツとしての役割は果たせない。

そこで今回はKEENのワークブーツを購入した。ゴアテックスに似た自社専用の防水加工を施したハードレザーに加えて、つま先にアルミニウムが埋め込まれている防御力極振り仕様だ。登山靴の代わりにさえなる。これならおいそれとボロボロにはならず、日頃のメンテナンスはさっと拭いて済ませられる。ホールド感が盤石なので歩き疲れもしにくい。ファッションアイテムとしても、さすがにスラックスとは合わせられないが、チノパンまでなら合わせられる。

以上、スタンスミスとサンダルを一足ずつ残して挑んだ総入れ替えだったが、小指の痛みと引き換えに上等な選択が行えたと思う。ゴム底のソールは革底よりも耐久性が高く、グッドイヤーウェルト製法の靴は修理もしやすいため、少なくとも十年近くは一連のバリエーションで戦っていけるだろう。

それにしても靴や鞄にはこんなにお金をかけられるのに、肝心の服にはあまりかける気になれないのが不思議だ。先週、トミーヒルフィガーで見かけたン万円のアウターをそっと棚に戻して、ユニクロで7990円のダブルフェイスコートを二着買った。今年の冬はもうこれでいいや。