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2023-08-21 10:07:01 +09:00

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保守SNSの欺瞞を暴く 2021-10-01T11:00:14+09:00 false
tech
politics

一昨日、Misskey.ioのローカルタイムラインはある話題で持ちきりだった。保守SNSを名乗る謎のインスタンスが突如現れたからである。

「保守SNS」とは元東京大学特任准教授の大澤昇平氏によって設立されたSNSだ。名称の通りイデオロギー色が右側に強く、英語圏における「Gab」「Parler」と同じ立ち位置を狙っているものと見られる。これらの先行例も同様に保守派――というよりは右翼、差別主義者、陰謀論者――が集結する場として知られている。

大澤昇平氏自身にも「自社では中国人は採用しない」との発言を行った結果、特任准教授の地位を追われた過去があり、彼らはその手の発言がしづらくなってきている現代社会を「抑圧的」と捉えているようだ。僕からすれば手当り次第に偏見をばらまく彼らこそ加害者に他ならないが、彼らには彼らなりの主観的現実が備わっており、それに基づくと 「自分たちは”自由”な発言を妨げられ、不当な弾圧を受けている被害者である」 といった具合になるらしい。この認識の隔たりは非常に大きい。

兎にも角にも既存のSNSでうまくやっていけない彼らは、より”自由”な発言の場、自分たちにとっての理想郷を希求するに至った。これがまさしく「Gab」や「Parler」であり、ひょっとすると日本においては「保守SNS」とやらになるのかもしれない。正直このこと自体は大いに結構というか、勝手に視界から遠ざかってくれるのならドシドシやってくれとさえ感じる。とはいえ「保守SNS」が開発されるまでに起こった問題や、ローンチ後の実態については看過できない部分がいくつもあり、その点はきっちり釘を刺しておきたい。

産地偽装

保守SNSは純国産を謳うことで既存のSNSとの違いをアピールしてきた。畜産物でさえ国産の定義は意見が別れるのにソフトウェアの「産地」を定義するなどほぼ不可能に思えるが、実際そのように宣伝されているので何か秘策があるのだと考えられていた。

しかし件のWebサービスを調べてみると、どう言い繕っても国産とはとても言いがたい実装を行っていることが明らかとなった。まずもって注意を向けられるのがサービスの設計基盤である。結論から言えば、もちろんフルスクラッチでなければ厳選された魚沼産ソフトウェアでもなく、分散型SNSとして広く知られる「Mastodon」の粗雑なフォークであった。

つまり、既製の外国製ソフトウェアを流用しただけに過ぎず、決して国産とやらではない。下記に一目瞭然の証拠を提示する。

……!?
見ての通り、ログイン画面で「登録する」ボタンを押すと、あろうことかMastodonの公式ページに飛んでしまうのだ。 現状、保守SNSは招待制らしいので登録画面のコーディングが追いついていないのかもしれないが、それにしてもひどいお粗末さ加減だ。

続いて、運用サーバの素性を確認する。保守SNSが彼らの言うところの”自由”な発言を保障するには、諸外国から干渉を受けにくいインフラ環境で構築されていなければならない。したがって、差別主義者に厳しい欧米各国企業のクラウドサーバは彼らにとって論外ということになる。

$ whois sns-sakura.jp
Domain Information: [ドメイン情報]
[Domain Name]                   SNS-SAKURA.JP

[登録者名]                      株式会社Daisy
[Registrant]                    Daisy, inc.

[Name Server]                   ns-1632.awsdns-12.co.uk
[Name Server]                   ns-1416.awsdns-49.org
[Name Server]                   ns-178.awsdns-22.com
[Name Server]                   ns-593.awsdns-10.net
[Signing Key]

[登録年月日]                    2021/09/15
[有効期限]                      2022/09/30
[状態]                          Active
[最終更新]                      2021/09/15 14:34:19 (JST)

$ nslookup sns-sakura.jp
Server:         203.165.31.152
Address:        203.165.31.152#53

Non-authoritative answer:
Name:   sns-sakura.jp
Address: 18.182.250.218
Name:   sns-sakura.jp
Address: 35.74.8.142

$ nslookup 18.182.250.218
218.250.182.18.in-addr.arpa     name = ec2-18-182-250-218.ap-northeast-1.compute.amazonaws.com.

$ nslookup 35.74.8.142
142.8.74.35.in-addr.arpa        name = ec2-35-74-8-142.ap-northeast-1.compute.amazonaws.com.

awsdns、amazonaws……ってAmazon Web Servicesじゃないか 説明不要、かの有名なGAFAの一角。保守SNSにご参加の皆さんにはたいへん残念なお知らせだが、あなたがたはまったく”自由”の身ではない。理論上、皆さんの発言はすべてAmazonの手のひらの上だ。保守SNSはAWSにホスティングされている。

以上の説明により「保守SNS」とやらが凡百のMastodonインスタンスの一つに過ぎないことがよく伝わったかと思う。参加者の皆さんはただちに大澤昇平氏のTwitterに突撃して説明を要求すべきではないだろうか。

ソフトウェアライセンス違反11月15日追記

保守SNSが凡百のMastodonインスタンスだと都合が悪いのはなにも愛国者に限った話ではない。Mastodonはオープンソースソフトウェアだが、改変を行った際はソースコードをすべて開示しなければならないのだ。この義務を課すライセンスをAGPLGNU Affero General Public License と言う。当の大澤昇平氏も存在自体は認識していたらしく先月に下記のような発言をしている。

しかし改変したソフトウェアを公開した場合は直ちにソースコードを開示することが求められるため、本項執筆時点11月15日で未だそれが履行されていない現状を鑑みると、残念ながら大澤昇平氏にはAGPLを遵守する意思がないと判断せざるをえない。

AGPLの問題については本エントリの初稿時点で既に周知の事実ではあったが、当時の僕の認識ではさすがの大澤昇平氏もライセンスくらいはいずれ守るだろうと考えていたので敢えて指摘を避けていた。万が一入れ違いで状況が改善されたら名誉毀損になるかもしれないと懸念したからだ。

ところがトランプ前大統領が積極的に関与しているとされるSNS「TRUTH Social」において同様の事例が発生したり、Mastodonのスポンサー兼開発者のSuji Yan氏が公にこの問題に言及している状態でもまったく改善に向けた動きが見られず、とうとう本エントリの読者からも「ライセンス違反の話を書いてくれ」と言われてしまったので追記することにした。

ソフトウェアライセンス違反は裁判に発展する可能性もある。Twitter上での追及は馬耳東風で突き通せても裁判ばかりは逃れられない。もし本件が取り上げられたらいよいよ彼も年貢の納め時ということになるのではないだろうか。

「国籍認証」の謎

かねてより保守SNSの目玉機能としてしきりに喧伝されていた「国籍認証」だが、こちらの方もさっそく暗雲が立ち込めている。右翼アカウントのTweetを覗き見るに、参加希望者たちは本機能こそが自由闊達な議論を可能にしうる最大の特長と見ているようだ。

僕からすれば単に日本国籍保有者と判ったところで、それのどこが信用に値する情報なのかいまいちピンと来ない。日本国籍を持ってさえいれば即ち善人なんて話はまずありえないし、僕は遠く離れたどこかの日本人よりも隣人のネパール人の方を信用する。

そもそも先祖が同じ日本人だから信用するとかしないとか、保守派にしてもえらく奇怪な発想に思えてならない。では彼らはたとえ十年来の友人が相手でも、仮に外国籍と判明したら途端に信頼感や友情が雲散霧消してしまうのか。「国籍認証」とやらを通過したどこかの日本人よりも下位の存在として捨て置くというのか?

そんな決断が平気の平左でできるとしたらとんでもない冷血漢というか……もはや昆虫じみている判断基準だなと僕は感じてしまう。

もっとも、そこまで彼らが全幅の信頼を置いている件の国籍認証も、結局は詳細が不明瞭なままサービスが開始されてしまっている。認証されたアカウントはユーザ名の横に国旗が表示されるとの説明はあるものの、それ以上の情報は現時点でも明らかになっていない。

Youtubeで大澤昇平氏が喋っている内容によると、運営企業が認めた「認証会社」がユーザの身分証を確認して、その結果が運営企業に通知されるらしい。「認証会社」ごとに多様な確認手段を用意させ、互いに競争させることでより信頼性の高い会社をユーザが選べるようにしたいと語っているが、なぜこんなまどろっこしい方法を採るのか判らない。国籍認証の結果に下手な格差がついて制度が瓦解しかねないし、他の会社で再び認証を受けられるのなら収斂に向かうだけで二度手間にしかならない。

運営企業が個人情報に直接触れるリスクを減らすための方便かと考えたが、運営企業が認証会社を公認する以上はどのみち任命責任から逃れられないだろう。最終的にこの仕組みがどんな形に落ち着くのか定かではないにせよ、参加希望者たちが期待しているほどの代物にはならないと思われる。なんせ、Googleフォームにパスポートと住民票の画像をアップロードしろとのたまっている始末だ。

別に自由でもない

前述の動画では他にも面白いことを言っている。どうも保守SNSは運営企業ではなく選出されたモデレータが言論統制を行うらしい。当初のAIによる自動判定だとかブロックチェーン云々の話は無かったことになったようだ。そこでは情報の事実性のみを重要視し、ユーザの自由よりも優先されるという。当然、事実かどうかの認定もモデレータが取り仕切る。大澤昇平氏曰く、トランプ前大統領は基本的に正論を言っているのでTwitterではBANされたが保守SNSではむしろ歓迎されるとのこと……こんなのただの専制じゃないか?

要するに保守SNSではヘイトスピーチは許されても、参加者たちから大きく離れた意見は許されないかもしれない。情報の正誤を認定するのはモデレータであり、下された判定をもとにアカウントのBANや投稿の削除を決めるのもモデレータなのだから。そして、モデレータの選出には間違いなく大澤昇平氏が関わっている。あたかも同氏を玉座に座らせた王国のような装いだ。

この手の専横は「Parler」では既に起こっている。検閲されない自由闊達な議論の場を提供すると謳っていた件のSNSは、蓋を開けてみたらリベラルな意見を封殺して陰謀論やヘイトスピーチを持て囃すだけの異常な空間だったのだ。

創業者によると、パーラーは「検閲のないオープンなコミュニティーの場」であり、「ニューヨークの街角で話せることはパーラー上でも話せる」としている。
ただもちろん、この主張は誤りだ。パーラーは、データ収集をめぐるスキャンダルで倒産したケンブリッジ・アナリティカと同じ人物から資金提供を受けているのみならず、介入も検閲もしないとのうたい文句はまやかしであり、実際にはかなり積極的に検閲を行なっている。パーラーはアカウントを削除したり、多数の表現や画像の投稿を禁止したりしており、利用規定はもはやフェイスブックやツイッターよりも厳しい水準にある。
唯一の例外がヘイトスピーチで、パーラー上ではヘイト投稿がまん延している。さらに、とんでもない陰謀論が飛び交うSNSにふさわしく、突飛な疑いが掛けられることも多い。
(引用元:Forbes

確かにTwitterのアカウント規制基準には僕自身も思うところがあるものの、いくらなんでもここまであからさまではない。名称通り素直に保守派を優遇してやるとでも言っておけばいいものを、下手に色気を出して自由だのなんだのと嘯くからこうしてツッコミを入れられる。

Fediverseに繋がっている

冒頭で触れたMisskeyとは、各々のユーザが自由にサーバインスタンスを建てて運用できる分散型SNSの一種で、ちょうどMastodonの類友にあたる。Misskey.ioは主要なインスタンスの一つ。これらのSNSの特徴は共通のプロトコルを導入することでソフトウェアの仕様に違いがあっても、タイムラインを相互に閲覧できる仕組みが備わっているところだ。そのようにして形成される巨大な交流ネットワークをFediverseと呼ぶ。

最大の謎は、どういうわけか保守SNSが自らFediverseに接続しにきている点だ。Fediverseへの参入はむろん強制ではない。にも拘らず、国籍認証とやらに固執してまで限られた人間との交流を望んでいるユーザたちが衆目に晒されているのだ。大澤昇平氏の意図がまるでつかめない。参加者とて、自分たちの発言がいつの間にか巨大なネットワークに放流されていると知ったら憤るに違いない。Misskey.ioが保守SNSの話題で持ちきりになった理由は、まさしくこういう経緯があったためだ。

本人のTweetによればさしあたり切断したようだが、正式リリースの際には再び接続するという。しかし保守SNSのユーザたちが差別発言や陰謀論を連投し続けるなら、いずれどのインスタンスからも名指しで接続を断られて孤立してしまう気がしてならない。

保守SNSの真の目的

たとえ内実がMastodonの粗雑なフォークに過ぎず、サーバ代をAWSで安く済ませたとしてもやはり金はかかる。大澤昇平氏は本サービスの開発に伴って実施したクラウドファンディングで2000万円もの高額資金を調達したとされるが、その実態は様々な情報源からだいぶ怪しいと目されており、実際には大して金銭的余裕がないのではないかと推察される。わざわざ門戸を狭めて対象顧客を絞り込んでいる様子からも、広告収入でまともな利益を得られる見込みは低い。

僕は保守SNS自体はただの釣り餌だと考えている。元々しっかり運営していくつもりはさらさらなく、モデレータの権限やアバター、アイコンの類を高値で販売し、短期間のうちに売り抜ける。そして、運営上の不都合や障害を隠しきれなくなってきたところでサービスを捨て去る。さもなければ「認証会社」を通じて得た個人情報を活用して、次の商売に使い回す。大澤昇平氏の言動は一見右翼そのものだが、どこか演技的な側面が否めない。

かつて'00年代のインターネットには、中国や韓国を殊更に侮辱してみせることがネットユーザの嗜みだったという、すさまじく醜悪な文化が存在した。彼は世代的にその時期と被っているし、例の差別発言から見ても部分的にネット右翼ではあったのだろう。しかし公然と陰謀論をまくしたてたり、極右政党の支持を大っぴらに表明するほど極端に偏ってはいなかったはずだ。

自身を放逐してのけた東京大学やリベラル的言論に憎悪の念こそ抱きつつも、陰謀論に引っかかるような判断力の低い人たちをターゲットにして金銭をせしめてやろうというのが、彼の真の目的なのではないかと僕は思う。このような輩に「保守」の名称を簒奪されてしまうなんて、本当の保守派からしたら実に迷惑な話だろう。心よりお見舞い申し上げる。

おまけ

最後に、Misskey.ioの住民を恐怖に慄かせた保守SNSの悪魔的設計をお見せしよう。

Webページに接続者のIPアドレスが透かし画像で埋め込まれている。

あえて調査でもしなければ当然こんな仕様は知る由もないので、うっかりTwitterなどに保守SNSの画像をアップロードすると大澤昇平氏に投稿者のIPアドレスが知られてしまう恐れがある。今時分、発信者情報開示請求はかなり通りやすくなっているため、言及内容によってはスラップ訴訟を仕掛けられるかもしれない。

Mastodonのフォークで実装を済ませる横着な真似をしておきながら、こういうところでは抜け目なく報復の手筈を講じてくる。すっかり忘れていたが、大澤昇平氏はかつて未踏ソフトウェア創造事業でスーパークリエイターに認定された男。過去の栄光とはいえ技術者畑には違いない。

それほどの功績を残した人間の行く末が右翼と陰謀論者の王様とは、あまりにもあまりすぎる顛末だ。

■UPDATE 2021/10/03 20:37
某匿名掲示板で拾った流出画像の一部。案の定、内輪揉めが発生している模様。
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大澤昇平氏にやたら重用されているRyoO氏とは一体何者……

あわせて読ませたい

・極右専用SNS開発シミュレーション
トランプ氏が独自のSNSを開発する計画を建てているとの報道を受けて半年前に書いた記事。全部自前でやろうとするとここまで苦労する。