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効能度外視で甘くておいちい飴三選 | 2021-10-14T14:18:32+09:00 | false |
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時に諸君ら、飴は好きかい?
スーパーやコンビニに行くと、実に様々な飴が売られていることが判る。きらびやかな商品パッケージには、これまたえらく着飾ったフォントで宣伝文句がギチギチに詰め込まれている。曰く、レモン○個分のビタミンC!、曰く、メントール配合で眠気スッキリ!、さもなければ、[任意の漢方]で[任意の効能]!……と来たもんだ。ええい、しゃらくさい。ビタミンがなんだ、メントールがなんだ。もっと愚直に飴を舐めたっていいじゃあないか?
僕は飴を毎日舐めている。頭脳労働者だろうと肉体労働者だろうと、家にこもってゲームしかしていないニートであろうと糖分は等しく全身に行き渡る。良き飴には余計な混ぜものがない。まず砂糖であり、次に水あめである。実質、砂糖の塊なのだ。とにかく甘くておいちい。それで十分じゃないか? 飴の本分はとどのつまりそこに尽きる。効能をあれこれ詰め込んだ結果、本分が疎かになってしまうようではいけない。
とはいえ、まあ、分かる。飴の効き目を謳うことは、なにも今時分に限らない。大昔から兎にも角にも効能を誇示してきたのが飴業界の習わしであった。ただ単に甘くておいちいから舐めてますう、では大人の面目が立たなかったのかもしれない。ひとたび甘味目当てで飴を舐めていることが知られたら、これ即ち村八分、あくる日に脱藩謀反大逆……そういう価値観だったのやもしれぬ。だが今や文明開化の時代にして四民平等、民主主義と立憲主義の治世。飴ごときでとやかく言う者はおらんぜよ。されば飴を舐めよ、ただひたすら甘味のために舐めてみよ。
第三位:中島製菓 にっき飴
原材料名:グラニュー糖、水あめ、桂皮末、カラメル色素、香料
にっきとはなんぞや? と思った人もいるかもしれない。端的に言えば、シナモンに近い。実際、風味もよく似ている。しかし植物種としては近縁でも産地が日本産とセイロン産だったり、使う部位が根っこか樹皮かで微妙に違いがあったりする。口に含むと、ブワーッとシナモンっぽい風味が口内を覆う。同時に、ジワーッと甘味がやってくる。桂皮の成分のために、舌と喉がわずかにヒリヒリする。
原材料名を見ると明らかに直球の甘味なのに、なかなかどうしてこいつはテクニシャンだ。シナモンもにっきもあれこれと効能が謳われやすい植物ではあるが、今だけはどうでもいい。黙って甘味に身を委ねたまえ。僕は舐めている最中にあえて深呼吸してリラックスの極致を模索している。とりわけ理屈っぽいやつほど休憩中も無駄に考え込んでしまうからな。
第二位:中島製菓 はっか飴
原材料名:グラニュー糖、水あめ、香料
サクマ式ドロップスってあるじゃん? 言わずとしれた飴製品の代表格。僕は幼少の頃、幼稚園でそれを毎日のようにもらっていたのをよく覚えている。どんなに騒いでいた園児たちもひとたび飴を配るとなると、あたかも軍隊顔負けに整然と並びだすものだから思い返すと面白い。ところで、このサクマ式ドロップス、知っての通り色々な味がある。幼稚園教諭は缶から取り出した一個を順に配るだけなので、必ずしも好きな味に巡り会えるとは限らない。むろん、特定の味をよこせなどというワガママは許されない。
……はずなのだが、僕は毎回好きな味の飴が手に入った。 なぜかって? 僕ははっか味が一番好きだからである。逆に園児たちにとって、はっか味は不倶戴天の敵に他ならない。通常、こいつが缶から出るとおとなしい子は露骨に意気消沈し、部屋の四隅で貝になる。賢い子は、周りに交換を申し出てみるがすぐに絶対成立しないことを学ぶ。少々活発すぎる子は、とりあえずギャン泣きしてみたり大騒ぎするが、教諭に叱られて押し黙る。
一方、僕は常にニコニコ笑顔。はっか味がもらえたら、もちろん良し。もらえなくても、必ず誰かが交換してくれる。他の子たちからすれば、僕はセカンドチャンスをもたらす救世主だった。だが、取引にこぎつけられる者は一回あたり一人のみ。となると、では一体誰が交換してもらえるのか、という話になってくる。やがて周りの子たちは僕に媚を売るようになった。恐るべしサクマ式ドロップス。
僕も僕でだんだんと調子に乗ってきて、隅っこでおとなしく本を読んでいる子がすわ幼稚園の支配者に登りつめるか、と思われたところで教諭に 「ゴーマンになっちゃうよ」 と釘を刺され、次回からは僕だけ自動的にはっか味が配給されるようになった。当時の僕は権力の味よりまだはっか味の方を魅力的に捉えていたので「ゴーマン」の意味は解らなかったが、それで良しとした。はっか飴おいちい。
当然、交換相手になりえなくなった僕は間もなく支配者候補の地位を失って、再び部屋の隅っこ――本棚の真横――に舞い戻ることとなった。まあ、媚を売られている間はろくに絵本が読めなかったので、案外これはこれで望ましい顛末だったのかもしれない。
中島製菓のはっか飴は大粒で香りも強く、大人向けだ。このゴロッとしたやつを口に含むと、鮮烈な香りと豊かな甘味が口内をたちどころに刺激して、あの頃を想起させる。今の僕にサクマ式ドロップスのはっか味は少々物足りないが、これはすばらしい。はっかはにっき以上に人を選ぶ風味には違いない。しかし、僕にとっては人生を代表する味と言っても過言ではない。
第一位:中島製菓 たんきり飴
原材料名:砂糖(きび砂糖、グラニュー糖)、水あめ
この飴を初めて買う際はそこそこの勇気がいった。なにしろその名前。昔の人のネーミングセンスは理解不能だ。風邪予防の効能を宣伝したいからといって、食べ物の名前に 「痰」 とか付けるか? 次に、原材料名。香料すら加えない、純然たる砂糖の塊である。風邪予防はおろか、味わいすら期待できそうにない。だって砂糖と水あめしか入っていないんだもの。
だが、諸君らはお気づきだろうか、ランキングのすべてが中島製菓の商品で占められていることを。僕の中で中島製菓は既に全幅の信頼に足る企業になっていた。にっき飴も、はっか飴も、他の企業の同等品よりもよくできている。しからば、この本当に砂糖の塊にしか見えない飴にも、なにか特別な工夫が凝らされているのやもしれぬ。せいぜい、一袋百円程度だ。買ってしまえばいい。
結論から言えば、懸念は完全な杞憂だった。きび砂糖、というやつは、こんなにもコク深い甘味を演出してくれるのかと、舌の根までビビりちらかされた。いや、それだけではない。口内で溶ける飴の粘度、舌触り、時間の経過とともに変わりゆく妙味。どれをとっても珠玉の完成度だ。砂糖の塊が、香料すら用いぬただの砂糖の塊が、どうしてこんなにもおいちいのだろう。
これまで飴は、香料で風味に工夫をつけてなんぼのものと僕は思っていた。ところが伝統に裏打ちされた技法は、砂糖の塊を舐めて味わえる芸術品に仕立ててしまったのである。この有無を言わさぬ圧倒的な味わいの前には、さしものテクニシャンたるにっき飴や、思い出の積もるはっか飴でさえ後塵を拝してしまう。それほどの感動があった。いつでもどこでもどんな時でも、こいつがあればもはや慰みには困らない。良き糖分は佳く人を救う。
おまけ
飴を買い込むとなにかと困るのが保存場所である。夏場は飴が溶けるので冷蔵せねばならないが、元の袋のままだとどうにもかさばってやりきれない。そこで僕は手頃な空き缶に収納している。飴を空き缶に収納することは、子々孫々に受け継がれし伝統なのだ。
この空き缶は、初転職後の給料日に新宿の伊勢丹で買ったフォートナム&メイソンのロイヤルブレンド。茶葉にしてはびっくりするほど高かったがそのぶん香りもすごかった。このようにして、思い出に思い出を重ねるのも、また一興。