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2023-08-21 10:07:01 +09:00

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レトロで誠実な有線イヤホン アシダ音響「EA-HF1」 2022-03-28T09:00:33+09:00 false
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とうとう手持ちの無線イヤホンが故障してしまったので、この機会に有線に出戻りすることにした。僕は自宅に据え置きのオーディオ環境があるゆえイヤホンはもともと滅多に使わない。使うのは椅子に座るのも面倒な時か、それこそ外出時くらいだ。となると厄介なのが、無線イヤホンのバッテリー問題である。日常的に使う人ならこまめに充電するのだろうが、僕のような使い方だとその習慣がなかなか根付かない。いざ使おうとするたびに充電切れ寸前だったことは一度や二度ではない。

そこそこ値が張る無線イヤホンには何十時間も連続稼働できるものもあるらしい。しかし無線イヤホンの最大のメリットたる取り回しの良さよりも、僕にとっては最低限の音質を得るために余計な投資をしなければならないことの方が億劫であった。なにしろただ無線というだけでバッテリーや通信部分に開発コストが奪われているのだ。おまけにLDACでさえCD音質のデータをロスレス転送するまでには至っていない。

幸い、僕のスマートフォンにはイヤホンジャックが搭載されているし、当面は有線イヤホンに戻ってみても悪くない。コロナ禍のご時世では週に何度使うかも判らないので予算は極力抑えていこう――とまあ、そんな感じで購入したのが、タイトルにもある通りアシダ音響の「EA-HF1」である。このイヤホンは老舗音響メーカーが数年前に突如リリースした民生用製品で、驚異的なコストパフォーマンスを誇ることで知られている。価格は送料を含めてもせいぜい6000円台と、まさに僕の需要を満たす手頃さだった。

ハウジング部分の特徴的なデザインは自社のスピーカー「6P-HF1」をモチーフにしているらしく、そのレトロチックな外観は僕のような出戻り組には単なる意匠以上の文脈を感じさせる。あたかもアナクロ趣味を突き進む者を祝福してくれているかのようだ。スピーカーを模しているだけあり、ドライバ口径はシングルで15mmとかなりアグレッシヴな構成。他方、さすがに実売6000円台ではリケーブル対応まではやりきれなかったのか有線ならではの断線リスクは拭えない。

しかしアナクロ趣味を嗜むならそういった要素も前向きに捉えてやらなければならぬ、ということでタバラットの姫路レザー製イヤホンクリップを取り付けてやった。こうすることでEA-HF1の持つレトロ感がますます際立ち、いかにも趣に満ちた風情を演出できる。これは常時付けておくタイプのものなのでクリップをどこかに失くす心配はない。しまう時はクリップを開けてコードを内側に巻き取り、再び閉じるだけだ。

肝心の出音はと言えば、大口径のシングルドライバ構成から想像されうる通り、かなり低音域に振った音作りをしている。低音域から中音域に渡ってやや過剰ともとれる濃密さがあり、対照的に高音域はさりげない。ただ、作り手のオーディオエンジニアが良い仕事をしているおかげか、いわゆる「ドンシャリ系」としばしば軽蔑気味に形容される下品さは感じない。むしろSennheiserのHD500番台やHD600番台に通ずるウォーム感が多分に含まれており、とても聴き疲れしにくい。いつもより音量をワンステップ上げると独特のアタック感も出てくる。

本製品が送料込み6000円台のイヤホンであることを踏まえると、総合的な音質は相当に高いと言える。この価格帯はあるいは1万円台でさえも低音重視というと品性に欠け、高音重視となればキンキンシャリシャリしているだけ、原音重視などとのたまった暁にはただ退屈な音を鳴らす代物ばかりだが、本製品は限られたリソースの中で心地のよい音をうまく出しきれているように感じる。スペックシートありきでゴリ押しするオーディオメーカーが多いこのご時世には珍しい誠実さである。ことによっては3倍の価格のイヤホンとも良い勝負ができそうだ。

反面、意図的に出音が調整されている関係上、やはりモニター的な用途には不向きと評せざるをえない。手持ちのリスニング機材がこれ一つだけだと対象となる音楽のニュアンスを誤解してしまう恐れが否めない。したがって、本製品は唯一のイヤホンではなくいくつかのうちの一つとして所有する方が望ましい。なお、付属のイヤーピースは全種類試すことを強くおすすめする。しっかり耳に合っていないと露骨に出音が悪くなる。僕はLサイズでなければダメだった。

最後に、ちょっとした実験でスマートフォンへの直挿しではなくメインのオーディオ環境に本製品を接続してみた。D/Aコンバータはエルサウンド「EDAC-3 SPECIAL」、ヘッドフォンアンプはLuxman「P-1u」を使用している。

さすがにこの規模のヘッドフォンアンプに繋ぐと抵抗値が低すぎてホワイトノイズが激しい。音量は一番小さい目盛りに合わせてもまだ大きすぎるほどだった。常用は厳しいと思われる。とはいえ、やや過剰だった低音域がよく整理され、高音域もさらに伸びるようになった。本製品の持ち味の聴き疲れのしにくさは健在なのでノイズを除けば正常進化していると見ていいだろう。有線イヤホンならどんな製品であれこういう遊びができるが無線だとこうはいかない。

次の外出の際には実際に本製品を携帯して有線イヤホンの取り回しを再確認するつもりだ。良い感じにハマれば今時分はかえってファッショナブルに見えるかもしれない。