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title: "革探しの旅Ⅲ:ジッパーの逆襲"
date: 2024-08-26T18:12:11+09:00
draft: false
tags: ['diary']
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![](/img/327.jpg)
[前回](https://riq0h.jp/2024/07/01/221347/)の精神的続編。たぶん旧作ファンに怒られる方の。一度決めたコンセプトを覆すのは辛いものだ。ある日、通勤用に愛用していた[布鞄](https://www.sudahanp.com/item/SH436/)が裂けた。ラップトップが入り、他の携行品もぴったり収まる上に可愛い、すばらしい鞄だったのにここへきて弱点が露呈してしまった。誓って言うが直接なにかを当てたり擦ったりはしていない。上の画像は内側の左端だが右端もほぼ同様の有様だ。
もちろん補修はできる。せっかくなら裁ち革を用いた修繕を試そうと思い、すでに革素材を発注している。だが、どんな素材を用いようとも状況からみて応力が端に集中している以上、通勤用途にはもはや耐えられそうにない。今後は予備や雨天時など他の身の置きどころを考えてやる必要がある。
となると新たに鞄を発注しなければならず、材質はおのずと革製が選択される。長期的な耐久性において革を凌ぐ材質はそうない。コストパフォーマンスではナイロンが有利だが、加水分解という時の宿命からは逃れられない。製品サイクルの早さゆえデザイントレンドの影響も受けやすい。一方、革製品はそれ自体がトラディショナルな性質を持つ。きっと月面旅行でも使われるだろう。
さいたま国際宇宙港から打ち上げられるシャトルで、隣席に座るマダムから詰問される。*「あら、今どきリアルレザーの鞄を持っていらっしゃるの 勉強不足だわ」「でもルイ・ヴィトンのフェイクレザーだってそう長くは持ちませんよ。これはもう30年も使っているんです」「まあ ちょうど月面支店でお買い物をするつもりだったのに、ご挨拶ね」*……ところで、宇宙空間に晒された本革はどうなるのだろう? さすがにそこまでは知らない。
しかしA4サイズの革鞄は前回に指摘した通り大変難しい。同じサイズの布鞄と比べて重く材質に厚みがあるぶん、シルエットにも気を払わなくてはいけない。油断すればあっという間に熱帯雨林の探検家、すなわちインディ・ジョーンズと化してしまう。広い表面積を無駄にしまいとあちこちにポケットを付け足した日には確実にハムナプトラである。
開閉の簡便性も重要だ。なんであれ通勤用途という題目を満たすには片手でものを出し入れできなければ見合わない。両手は空いている前提とはいえ、あくまで鞄とリュックを隔てる差異はクイックスロット性にある。携行品の取り出しに手間取るなら収納力に勝るリュックに軍配が上がる。
![](/img/328.jpg)
それで、最終的にこういう鞄を選んだ。留め具は単純なギボシ留めで他に固定具はなし。前にも中にもポケットはついていない。サイズはA4EでA4より若干のゆとりがある。結果的に布鞄よりややシルエットが大きくなってしまったが、装飾が抑えられているおかげでそれほどハリソン・フォードな感じはしない。
他方、この鞄は背面にジッパー付きのポケットが用意されている。僕の思想ではジッパーは収納の文化であってリュックには必須でも鞄には相応しくないと見なしていたのだが、ポケットを増やせず複雑な作りも好かないとくれば多少は考えを改めざるをえない。
![](/img/329.jpg)
![](/img/330.jpg)
幸いにもジッパー内の懐は期待以上に広く、上記画像の形で携行品を立体的に格納することができた。これならジッパー付きポケットにありがちな中身が散乱する課題も見通しが良くなる。むしろ背面にクイックスロット性とセキュリティ性を兼ね備えた収納があると捉えれば相当に好印象だ。
これは例によって[Organのショルダーバッグ](https://www.herz-bag.jp/webshop/products/detail810.html)なのだが展示品が店頭になく、かといって他に有力な候補も見当たらなかったためカタログ画像頼りで発注を行った。注文の時点ですでに理論面の検討を終えていたのであまり心配はしていなかったものの、実物がまさしく意図通りの作りだとなお喜ばしい。
一応、あえて欠点にも触れておく。この鞄の重量は約1kgで僕の布鞄に比して2倍の重さがあり、誠に遺憾ながら決して軽いとは言えない。ラップトップと携行品を加算すると総重量は3kg近くにも達する。せいぜい美意識を筋力で支払っていると考えて運動に精を尽くすほかない。
持つ者と持たれるものは共鳴しあう。携行品の種類と分量、行き先、ライフスタイルに応じて持つべき鞄が選定され、あるいは逆に持つべき鞄をひとたび定めたのなら、その鞄次第で携行品やライフスタイルが選定されていく。今回は後者だった。持ち物を携えて行く先々でなにを為すかが人生のエッセンスだとすれば、鞄によって我々自身が規定されているのだと言うこともできる。
![](/img/331.jpg)
先んじて使っている革鞄との比較画像。真夏の日差しを共にたっぷり浴びた方と比べると、まだ真の意味で自分の鞄にはなっていないと感じる。しかし僕が月面に降り立つ頃には僕自身に刻まれた皺と等しい年輪を湛えて小脇に佇んでいるだろう。