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2024-12-03 23:01:59 +09:00

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title: "革探しの旅Ⅴ:革靴編"
date: 2024-12-04T08:30:17+09:00
draft: true
tags: ['diary']
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[前回](https://riq0h.jp/2024/10/09/175727/)の外伝的前日譚。観ていない人も多いので話が合わせづらいやつ。身につける位置こそ違えど鞄と靴には大きな関連性がある。鞄にクラシックな革鞄を選んでギラギラのランニングシューズを履くと、トータルコーディネートの難易度は飛躍的に高まる。同様に、スポーティなアウトドアリュックを選んでピカピカのドレスシューズを履くのはかなり難しい。
逆に、鞄と靴の意匠とカラーリングが合っているともうほとんど完成形に近い。なにも手がかりがない中から探るよりも、絶対に譲れないアイテムを前提にセットアップを組む方がファッションでもゲームでも効率的にビルドを構築できる。上級者向けと見せかけて実は手堅い戦略なのだ。
もっともこれは僕が何年も惰性で履き古した靴を総入れ替えするための方便に過ぎない。なにしろ鞄と同様に靴も一つだけではまったく用を足しきれず、その時々に応じて何足も揃えなければならない。そんなわけで秋口から今まで僕はずっと、様々な店で革靴を物色していた。
まず第一の選択はストレートチップである。ストレートチップとはドレスシューズの先端に一文字の溝が入った意匠の靴のことで、数ある中でもっともフォーマルなスタイルに適しているとされる。フォーマルだからかすわスーツ専用かと思いきや、近年ではカジュアル履きもだいぶ検討されてきており、革靴ブランドの直営店でも自社製品と合わせてデニムパンツを履いている店員をよく見かける。
![](https://scotchgrain.co.jp/site/wp-content/uploads/2021/09/main_odessa.jpg)
僕が買った靴は上記の[スコッチグレインのオデッサ](https://www.scotchgrain-shop.com/category/PROPER_ALL/916MBR.html)から、革を国産、靴底をゴムに換えて作られた限定企画品だ。ヨーロピアンレザーに特に思い入れがなく、地面の湿り気に囚われず履き込みたいと考えている人にはむしろ優良と言える。本格的な革靴は底も革でできているゆえ滑りやすく、湿った地面を歩くと革底から内部に染みるリスクがある。つまり、二日続けて晴れていないと履けない。
むろん、革の靴底はたいへん見栄えがよく高級感に長けているのだが、僕としては日常の実用性も外せず上記の選択に収まった。しかしながら足の実寸が24.7cmなのに、革の延びを想定して24.5cmを購入したせいでここ数週間は小指がちぎれそうなほど痛い。最近、僕と会った人は奇怪な歩き方をしていると思ったに違いない。だがこれはシンデレラフィットする革靴を手に入れるためには決して欠かせないステップなのだ。
僕が買ったのは色が明るいモデルなので冠婚葬祭のうち葬には使えないとはいえ、ストレートチップはあらゆるフォーマルファッションに適合する。グッドイヤーウェルト製法の靴――靴底が接着剤ではなく糸で縫い合わせてある――は始めてだが、そのクラシカルな履き心地はいかにも高貴な雰囲気を楽しませてくれる。
次に、第二の選択はホールカットである。ホールカットとは概ね一枚の革で構成されたつなぎ目のないものを指す。つま先に装飾のない革靴のスタイルをプレーントゥと言うが、それよりもさらにミニマルなスタイルとなる。フォーマルさの位置づけとしてはストレートチップの次点に来るとされる。
![](https://www.regal.co.jp/img/goods/2/W70BCE_____DBR____2.jpg)
こうした靴を目の当たりにした際に意識させられるのは、たかが線一本、あるいは二本減っただけで全体の印象のがらりと変わってしまうことだ。まさしく神は細部に宿る。あたかも審美観を侵襲されたかのような畏敬に近い感情がせり上がってくる。当初は買う予定になかったが、気づいたら検討に入っていた。
先のストレートチップと同様にゴム底のものを探すと、[リーガルの直営店限定モデル](https://www.regal.co.jp/shop/g/gW70BCE_____B____235/)が見つかった。ドレッシーな製法にこだわるスコッチグレインとは対照的に、明治時代の軍靴製造にルーツを持つリーガルは機能的な製品が多い。手入れがほとんど不要なガラスレザーや、特殊機能を持つ高性能ソールの採用は伝統派からはしばしば冷笑されるが、これはこれで工学の美だと僕は思う。
今回選んだモデルもグリップ力に長けた高性能ソールに加えてゴアテックスを内部に採用している。さすがにどしゃぶりの雨となると対処しきれないようだが、雲行きが怪しい日でも安心してドレスシューズを楽しめるという点ではさながらフランス製の武器に似た優雅な堅牢性を連想させる。
第三の選択はUチップである。文字通り靴の先端にU字型の縫製が施されているものを指す。モカシンと呼ぶ方が一般的かもしれない。フォーマルさの位置づけとしてはもっともカジュアル寄りとされる。それゆえデニムパンツと合わせてもよく適合する上に、スニーカーよりはエレガントな外観からジャケットとの相性も良い。このように、あまりにも万能なので革靴はこれしか持っていない人も少なくないと思われる。
![](https://scotchgrain.co.jp/site/wp-content/uploads/2023/08/main_wales-1.jpg)
僕が目をつけたのは上記の画像に映っている[スコッチグレインのチロリアン](https://www.scotchgrain-shop.com/category/405/87DBR.html)だ。Uチップと言っても靴の形状は様々だが、どうせカジュアル側に振るなら靴の形状ごと違いを設ける方が使い分けしやすい。ただでさえストレートチップにホールカットと典型的なロングーズのスタイルが連続しているので、キャラクターを変えるのは妥当な試みだ。
とりわけU字チップは非常に種類が豊富でロングーズからブーツ、果てはスニーカーに至るまであらゆる靴がUチップのカテゴリに収まってしまう。その中で一歩抜きん出たデザインを志向すると独特なフォルムを備えたチロリアンが有力な選択肢として挙がってくる。
この選択は一番難しかった。どのUチップが自分に最適なのか毎日考えて眠り、起きて暮らし、ついにはいつでも頭の中に靴の先端が描画されるに至った。つま先のたった数インチのために僕の美意識が総動員されている。冷静に考えるとちょっとおかしい。だが、おかしいからこそやり甲斐がある。およそ誰も気にしない足元に限られた人間だけが弛まぬ熱意を込めているのだ。
第四の選択は――まだあるのか?――ワークブーツである。今までに挙げた靴は基本的にはどれもドレスシューズで、ウォーキングや外作業などのアウトドア用途には明らかに向いていない。リーガルのホールカットはゴアテックスを内蔵しているものの、表面自体は普通の革なので雨水に晒さないに越したことはない。そこであらゆる用途に適応したワイルドカード的な革靴がおのずと要請される。
そうしたワイルドな用途ではシューズよりも強靭性を重視したブーツの方が望ましい。つまりワークブーツだ。革のワークブーツがあれば、それなりにファッショナブルであり同時に実用性も満たすことができる。たとえば[レッドウィング](https://redwingheritage.jp/category/MEN/00875.html)はその分野において一世紀以上にわたって王者の地位を占めている。
確かにレッドウィングは良い……が、上に挙げた用途では「良すぎる」感じがする。レッドウィングはドレスシューズではないが、本格的なドレスシューズ並に高価で防水でもない。自社鞣しのオイルレザー一点のみで勝負という昔ながらの西部劇スタイルで戦っている。なので浸水するかしないかで言えば普通にするし、順当にボロボロになっていく。
これはドレスシューズが経年変化で「味が出る」というのは違う。本当にボロボロになるように使うのがレッドウィングの美学なのだ。しかし僕の性格としては、おそらくそのような使い方はできずになんだかんだで大事にしてしまうだろう。それではワークブーツとしての役割は果たせない。
![](https://cdn.shopify.com/s/files/1/0660/2794/6211/products/31121f59a817f56561606011e10db59734804860.jpg)
そこで今回は[KEENのワークブーツ](https://www.keenfootwear.jp/products/mens-san-jose-6-waterproof-boot-aluminum-toe-tortoise-shell-star-white)を購入した。ゴアテックスに似た自社専用の防水加工を施したハードレザーに加えて、先端に金属が埋め込まれている防御力極振りのワークシューズだ。登山靴の代わりにさえなる。これならおいそれとボロボロにはならず、日頃のメンテはさっと拭くだけで済む。ホールド感も凄まじいので歩き疲れもしにくいだろう。さすがにスラックスとは合わせられないが、チノパンまでなら普通に合わせられる。
以上、スタンスミスとサンダルを一足ずつ残して挑んだ総入れ替えだったが、小指の痛みと引き換えに上等な選択が行えたと思う。ゴム底のソールは革底よりも耐久性が高く、グッドイヤーウェルト製法の靴は修理もしやすいので、少なくとも40歳くらいまでは一連のバリエーションで戦っていけるだろう。
それにしても靴や鞄にはこんなに金をかけられるのに肝心の服にはあまりかける気になれないのが不思議だ。先週、トミーヒルフィガーで見たン万円のアウターをそっと棚に戻して、ユニクロで7990円のダブルフェイスコートを二着買った。今年の冬はもうこれでいいや。