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革探しの旅Ⅳ:トート編 | 2024-10-08T20:47:27+09:00 | true |
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ショルダーバッグの選定が一段落ついたところで次はトートバッグを検討する。まったく難儀な代物だ。紙袋同然のもっとも基本的な形状をしているだけに品数がやたら多く、そのぶんよく研究されている。ちょっとした差異にも固有の名前が付く。にもかかわらず、簡単なものなら自分で作ることもできる。僕も昔に作った覚えがある。
ではなぜ、そんな単純な代物が今日においても依然としてバッグ界の一角を占めているのかというと、それだけ圧倒的に便利だからだ。ショルダーバッグが決まりきった携行品を出し入れするのに適した鞄だとしたら、トートバッグはそれ以外のすべてに適している。大抵なんでも入るし、なんならなにも入っていなくても許されが発生する。
ショルダーバッグはこうはいかない。峻厳な世界観である。携行品が過不足なく入っていないショルダーバッグは完全に失敗している。クイックスロットになにも登録していないプレイヤーがいたらそいつは初心者だ。つまり、ショルダーバッグをやたらスカスカにしていたり、逆に出し入れしにくいほど荷物を詰め込むやつがいたら、そいつはショルダーバッグを使いこなせていない。
一方、トートバッグにそういうハードルの高さはない。縦長の構造ゆえ下から上に携行品をスタックしていく文化を許容している。好きに荷物を詰めていいし、空のままでも構わない。それはこれからなにかを入れるために予約されている空白だと見なされる。ショルダーバッグがクイックスロットなら、トートバッグはインベントリなのだ。
とはいえ、几帳面に整理整頓していればインベントリであっても一定のクイックスロット性を発揮しうる。内側にポケットが付いていたら特に素晴らしい。僕は小ポケット2つ、ジッパー付きポケット1つの構成が好きだ。小ポケット2つに財布と小物入れ、ジッパー付きポケットにKindleが入るからだ。
そうした条件で選んだのが、本稿シリーズではお馴染みOrganのショルダートートだ。一応、他のブランドも見て回ったが希望の価格帯でこのミニマルさと質感を兼ね備えた鞄はなかった。名前の通り、肩掛けを引っ張ると伸びてショルダーバッグ相当の長さに変身するのだ。いわゆる「ツーウェイ」にありがちな持ち手が2種類ついているのとは一味違う。
トートバッグに期待されるのはあらゆる目的に広く適するファンクショナリティと、際立ったシンプルなシルエットである。僕はもともとショルダーバッグでもなるべく装飾の少ないものを選んではいるが、やはりトートのモノ・プレートな出で立ちには敵わない。ゆえにどんなファッションにも適合する。
ちなみに、僕はトートバッグは口がマグネットで閉じるタイプが好きだ。いわゆるビジネストートだとジッパーが配されていて、より分厚く、底面には床置き用の鋲が打ってあったりするが、本革にそれらを期待するとウエイトが極めて重くなる。重心で負荷が分散されやすいショルダーバッグでも1kgを超えたらしんどいのに、フルスペックの本革ビジネストートは平気で2kg近くする。きっとお堅めのビジネスマンは鞄を武器に競合他社と殴り合っているのだろう。
それにひきかえ今回買ったトートバッグは750gとたいへん肩に優しく作られている。僕もこうありたいものだ。なにも入っていない時は底をぺしゃんこに畳んでいける。もし皆さんが就職や転職を経てなにか立派な鞄を新調したいと思ったら、まずはトートバッグから検討してみてほしい。リュックサックはなんでも入るがすぐに出せない。ショルダーバッグはすぐに出せるがそんなには入らない。トートバッグは見事にその中間で、大抵の需要を充足せしめる。
おまけ
でも雨の日は使えない。だって本革だもの。そういうわけで、ペアとなる防水帆布製のトートバッグも購入した。帆布のトートバッグは革製よりもさらに多く出回っているので、商品選びはとても難航した。ビジネスとカジュアルの両方に使って差し支えがなく、太い号数の糸で縫われていて丈夫、かつ防水加工が施されていること、などを念頭に2ヶ月ほど真剣に探し続けた。
結果、たどり着いたのが香久山鞄のシカクイトートだ。誠に恐縮ながらネーミングセンスはやや残念と評せざるをえないが、商品自体はとてもよくできている。まず、持ち手が牛革なのが良い。ここまで布だったらカジュアルに寄りすぎてきっと関心をしなかったに違いない。6号帆布を使っているのも良い。体育館のマット並に丈夫で、そうめったには破れない。
パラフィン加工による防水もちょうど良い。防水加工といっても複合素材を用いていると防水効果が失われた後の劣化具合が相当ひどくなる。対して、パラフィン加工の原料は蝋なので経年変化が比較的おとなしく、防水加工が失われた後はただの鞄に戻る。非常にサステナブルな作りだ。
実際、上の写真は横殴りの雨を浴びて帰ってきた直後に撮ったのに、まるでなんでもなかったような澄まし顔で佇んでいる。加えて、小ポケット2つ、ジッパー付きポケット1つの条件もクリア、底面に鋲も打ってある。しかし帆布なので重さはたったの650g。もはや鞄はこれだけで十分事足りるのではと言われたら反論はかなり難しい。
かくしてショルダーバッグとトートバッグのビルド構築が完了した。僕にとって理想的に荷物を出し入れできる環境がついに整ったと言える。ところで、いま一番欲しいのは鞄を出し入れできる空間である。なにしろ、さすがに10個近くもあると目当てのものを取り出すのにずいぶん苦労する。