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2023-09-09 23:34:12 +09:00

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title: "イーロン・マスクの尻舐めをやめられない"
date: 2023-09-09T08:08:38+09:00
draft: true
tags: ['essay']
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とっくに死んだはずの亡者が墓から蘇り街に跋扈している。動かしているのは他でもない僕たちだ。プライベートカンパニーと化したTwitter改めXはイーロン・マスクの持ち物だが、サービスがユーザの投稿ありきで成り立っている以上は常に僕たちがサービスの存続に関与している。
文句ばかりはよく耳に入る。日々、サービス内容は改悪され続けるし、たぶん今後もよくなる見通しはない。インフルエンサーに金が直接振り込まれるマジで最悪の仕組みが導入されて以来、金に目がくらんだユーザの投稿はより扇情的に毒々しくきらめき、タイムラインを流れる広告枠はついに政治団体にまで与えられはじめた。
なんでもXはスーパーアプリとやらになるという。決済機能や通話機能をどんどん盛り込んでいって、最終的にマイクロブロギングは機能の一つとしてその中に押し込められる。もちろん僕たちはまたぞろ文句をしきりに投げつけるのだけれども、まずもって方針が変わることはありえない。なんといっても誰も彼もXに投稿して丹念にイーロン・マスクの尻を舐めているからな。
世の中にはそのつもりがなくても客観的にはどう見てもそうでしかない現象がある。というのも、Xはさっき言ったように彼の持ち物で、ユーザの意見を反映する気はさらさらなく、機能的に他の選択肢がないわけでも、誰かに投稿を強いられているわけでもないからだ。僕たちはみんな、自分の意志でもってイーロン・マスクの尻を鷲掴みにして舐めている。
今、イーロン・マスクが尻を突き出している。それをフォロー・フォロワーが一列に這いつくばって、投稿するたびにやつの尻を舐め回す。互いにXの文句を言ったり、独り言を言ったり、雑談を交わしたりして苦楽を分かち合いながら舐めていると、思いのほか苦痛ではないような気がしてくる。みんなも尻を舐めているんだしいいか、みたいな。
実際にはやつは遠慮なしにびちびちと糞を漏らしていて今後も一生漏らしまくりなんだけども、そうやって順繰りに丁寧に舐め回しているものだからやつの肛門はいつもピカピカで自分が糞を漏らしている事実にも気づいていない。いや、気づいてはいる可能性はある。でも気にしていない。だって君らが舐めてくれるんだろ? じゃあいいじゃん。今日も舐めてくれるでしょ? ってなもんだ。
僕たちはそうやって突き出された尻をフォロワーと並んで日々舐めている。もしかしたら君は「人間関係が……」みたいなことを言うかもしれないが、そんなのは百も承知というか当たり前の話だ。君のフォロワーもそう思っているよ。一緒だからイーロン・マスクの尻を皺の溝まで舐めても抵抗を感じないんだ。そりゃ一人だったら趣味でもなければやらないだろ。
あるいは「仕事だから」とのたまう輩もいるだろうな。だがそんなのは言い訳にならないどころか、かえってたちが悪い。ビジネスに繋げられるほど有力なアカウントならフォロワーも相当多いに違いない。つまり、君自身がXの有力コンテンツであり、固有の資産でもある。さながらイーロン・マスクの尻を舐めているフォロワーの横で、景気よさげに尻舐め音頭を踊っている囃し立て役だ。なんか被害者ぶっているけど全然普通に共犯者でしかない。
僕たちがしたり顔で政治とか社会についてXで語っている時、陰謀論者で反ユダヤ主義者でアホ右翼のイーロン・マスクの尻を舐めている。僕たちがすまし顔で技術とか科学についてXで語っている時、しょうもない不具合を頻発させているイーロン・マスクの尻を左右に拡げて舐めている。
僕はみんながスーパーアプリ化に際して身分証明書の提出とか有料化とかが要求されたらさすがにやめるんじゃないかと一ヶ月くらい前までは思っていたんだけど、今ではまったくそんな気がしないな。相変わらず横一列で尻を舐めているフォロワーを見て「えっ、これって舐め続けていいやつなのか?」とうろたえつつも、やっぱりなんでもかんでも差し出してしまうんだろう。君より奥に並んでいるフォロワーも延々と後に続く。
「いや、さすがにそうなったらやめる」なんて言える事態はもう何度も起きているよ。昨年の頭に「名前を変えたら凍結される」とか「一定の上限を越えると投稿が読めない」なんて聞いたら君らは「そうなったらやめる」って言っていたんじゃないかな。だから、フォロワーの中でもいっとう賢くて口のうまいやつが「逆に、提出する」とかなんとかやっている様子に笑って、君もきっと提出するよ。金だって余裕で払うだろうね。
なまじ4桁フォロー以上いる人たちは「逆に、金を払わせる」とかなんとか言いつつ投げ銭を要求して、ひょっとすると月額料金くらい誰かからお布施してもらえるかもしれないな。それで自分の意外な影響力に気づかされて、ますますイーロン・マスクの尻舐めをやめられなくなっていく。そのうち、尻舐め音頭を踊る役が目前に見えてくる。
それでも現実にXが使いづらくなっていっているのは確かなんだ。僕たちがフォロワーを理由にしてイーロン・マスクの尻をピカピカに仕上げている間にも、身のこなしが軽いユーザはさっさとやつの尻を蹴飛ばして出ていく。今となっては行く場所は他にいくらでもある。いつまでも不自由な場所に留まって人々とつるんでいればいるほど、永久に尻舐めを卒業することはできない。
とはいえまあ、やめられないよな。尻の舐め方がうまいと気心の知れたフォロワーからいいねを送ってもらえるし、たまに”リポスト”してもらって別の列にまで小粋な尻舐め芸を拡散してもらえるし。それはXで培ってきた人間関係があってこそ得られる最上の娯楽ゆえ、ここでは尻なんて舐める必要はありません、などと言われても、がらんどうの部屋でなにをしていいのか判らず結局はイーロン・マスクの尻舐め特設会場に戻ってしまう。
僕はMastodonインスタンスを建ててからはブログの更新告知しかXに投稿していないが、まあ50回舐めているか100回舐めているかの違いしかないんだろうな。なにしろそうしてから丸二ヶ月も経っているのにフォロワーが減るどころか逆に増えている。つまり、ブログの更新を報せるだけでも僕はX上のコンテンツとしてそこそこ成立してしまっているのだ。僕も尻を舐めているし、舐めさせている。
しかし程度問題を考えるとさすがに皮肉の一つや二つは言いたくはなる。社会とか政治とか、自分の半径5メートル以外のことはなにも知りませんっていうような典型的ンポリならともかく、いかにも一家言ありそうな人々が日に何百回も這いつくばってやつの肛門を舌先で器用にほじっている現状はいくらなんでも嘘でしかない。