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Rikuoh Tsujitani 2024-03-06 19:19:49 +09:00
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@ -239,8 +239,8 @@ tags: ['novel']
 私が魔法能力行使者として正式に階級章を授けられたのは、その日から始まった訓練を終えたさらに半年後の話になる。  私が魔法能力行使者として正式に階級章を授けられたのは、その日から始まった訓練を終えたさらに半年後の話になる。
 リザちゃんも同じような訓練をしたのかな。  リザちゃんも同じような訓練をしたのかな。
”ムッソリーニ首相が王様に叱られて以来、イタリアのほとんどの土地はずっと敵にとられたままになっています。イタリア人の彼女はたまたま難を逃れていましたが、ドイツ軍に接収されたので今はここで戦っています。なんでも接収されると、別の国の人でもその国のきまりに従わなければいけないのだそうです。難しいことは私にはよくわかりません。いつか故郷に帰してもらえるといいと思います。イタリアはドイツの大切な同盟国なので、フューラーも色々考えてくれているでしょう。お父さんも、祖国に勝利をもたらすその日まで、どうかお元気で。ハイル・ヒトラー” ”ムッソリーニ首相が王様に叱られて以来、イタリアのほとんどの土地はずっと敵にとられたままになっています。イタリア人の彼女はたまたま難を逃れていましたが、ドイツ軍に接収されたので今はここで戦っています。なんでも接収されると、別の国の人でもその国のきまりに従わなければいけないのだそうです。難しいことは私にはよくわかりません。いつか故郷に帰してもらえるといいと思います。イタリアはドイツの大切な同盟国なので、フューラーも色々考えてくれているでしょう。お父さんも、祖国に勝利をもたらすその日まで、どうかお元気で。ハイル・ヒトラー”
 手紙を書き終えると私は杖を握って居室を出た。ベルリンの大きな基地は大きいだけあって基地の中に郵便局がある。壁伝いに身体を預けつつ杖をこつこつと叩いているうちに、窓口に着いてしまう。口数が少ない郵便局員の人に便箋を手渡すと、いつもの調子で鼻を鳴らした。私の中ではこれが受領完了の合図ということになっている。十日に着いてから毎日送っているので愛想の悪さには慣れている  手紙を書き終えると私は杖を握って居室を出た。ベルリンの大きな基地は大きいだけあって基地の中に郵便局がある。壁伝いに身体を預けつつ杖をこつこつと叩いているうちに、窓口に着いてしまう。口数が少ない郵便局員の人に便箋と身分証明書と小銭を手渡すと、いつもの調子で鼻を鳴らした。私の中ではこれが受領完了の合図ということになっている。すぐに判をつく音がして、身分証明書が突き返された。十日に着いてから毎日送っているので愛想の悪さにはもう慣れた。それも、今日までだ
 往路を同じ要領で戻ると、いつの間にかリザちゃんが起きて髪を梳かしていた。一定の感覚で刻まれる音の感じで、彼女の髪の長さが伝わる。  往路を同じ要領で戻ると、いつの間にかリザちゃんが起きて髪を梳かしていた。一定の感覚で刻まれる音の感じで、彼女の髪の長さが分かる。
「おはよう、リザちゃん」 「おはよう、リザちゃん」
「ん」 「ん」
 ぶっきらぼうに答えたかと思えば、彼女はなにも言わずに手を引いて私を椅子に座らせた。ぎしぎしした私の髪の毛に櫛が通されて不気味な音をたてる。  ぶっきらぼうに答えたかと思えば、彼女はなにも言わずに手を引いて私を椅子に座らせた。ぎしぎしした私の髪の毛に櫛が通されて不気味な音をたてる。
@ -337,7 +337,10 @@ tags: ['novel']
 金属質のつるつるしたそれの手触りを確かめていると、急にドアが激しく開いて看守の人たちが大騒ぎで入ってきた。  金属質のつるつるしたそれの手触りを確かめていると、急にドアが激しく開いて看守の人たちが大騒ぎで入ってきた。
 その後、私はたっぷり叱られてただでさえ少ないその日の食事が全部抜きになった。  その後、私はたっぷり叱られてただでさえ少ないその日の食事が全部抜きになった。
「食料がないわね」 「食料がないわね」
 出し抜けに、リザちゃんが言った。  出し抜けに、リザちゃんが言った。スプーンで缶詰の底をがりがりとこする音もする。私も同じことをしているのでちょっとうるさいくらいだ。
 ポーゼンに進みはじめてから早くも三日が経過した。外套に収まるだけの携行食糧は早くも底を尽きた。一時間おきに無線機の周波数を切り替えても友軍との連絡は一向につかない。ひょっとすると地上軍はもうベルリンまで撤退してしまったのだろうか。
 幾度となく、空を飛んで辺りを見渡したい衝動に駆られた。けど、どうしてもできなかった。バルバロッサ作戦以来、ソ連は五年間にわたり私たち魔法能力行使者と戦ってきている。一度でも発見されたら血眼になって追いかけてくるに違いない。そうなればポーゼンを奇襲するどころではない。
 私たちはひたすら平地や開けた場所、近隣の村などを避けて、敵兵との接触を最小限に抑えた。戦車の重苦しいキャタピラが地面を揺らすのが聞こえたら動き、歩兵たちのちょっとした声や足音にさえ敏感に反応した。そのどれもがベルリンを焼きに向かっているという事実を前にしても、真の目標の前には耐えなければならなかった。