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もっとも、事故については抗弁の余地がある。だって、本を読んでいるのだからまさしく背景と化した道路の上の話なんて知るよしもない。車同士がぶつかったからにはそこそこ大きな音もしただろうけど、僕は僕で物語の効果音を頭いっぱいに響かせるのに忙しかった。などと、情感たっぷりに言い訳の一つでも繰り出せたら、あるいは聡明さらしきなにかをほのめかせたかもしれない。
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だが、僕ときたら「よく分からないです」と細い喉から絞り出すと早々に力尽きてしまった。僕の能力の限界を悟ってか、もともと小学生の証言などさほどあてにしていなかったのか、お巡りさんは僕の目線の高さで微笑んで「そうか、じゃあ仕方がないな。邪魔して悪かったね」と言い残して帰っていった。
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だが、僕ときたら細い喉元から「よく分からないです」と絞り出したきり早々に力尽きてしまった。僕の能力の限界を悟ってか、もともと小学生の証言などさほどあてにしていなかったのか、お巡りさんは僕の目線の高さで微笑んで「そうか、じゃあ仕方がないな。邪魔して悪かったね」と言い残して帰っていった。
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ドアの向こうで自転車を漕ぐ音が徐々に遠のいていくと、さっきまで部屋の奥で息を潜めていた父親がぬっと顔を出した。「帰ったか」「うん」「余計なこと言ってねえだろな」「うん」簡素な応答に納得したのか父はまた引っ込んだ。寝室の衣装入れでUVライトを照らして大麻を栽培している父にとってお巡りさんは大の天敵なのだ。
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