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Rikuoh Tsujitani 2024-01-22 10:24:30 +09:00
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@ -163,11 +163,11 @@ tags: ['novel']
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「ううむ、もうタイプライタの扱いは私よりうまいな」
「ううむ、もうタイプライタの扱いは私よりうまいな。手紙は私が代わりに届けてあげよう
 管制官の声はいつも2フィート半高いところから聞こえる。機械の留具から紙面をするりと取り出して、感心したふうにうなった。その声はどんなに柔らかい言葉遣いでも鋼鉄の感触を与える。
「こんな私でもお手紙が書けるのですから、つい夢中になっちゃって」
もったいないお言葉です。こんな私でもお手紙が書けるのですから、つい夢中になっちゃって」
「戦争に勝利したらタイピストになるといい」
タイピスト……?」
たいぴすと……?」
「人の代わりに文章を打ち込んであげる仕事だ。これなら家の中で働ける。給料もかなり良いと聞いている」
 そうか、戦争に勝ったら戦う相手がいなくなるんだ。そうしたらどこでなにをしているのか隠す必要もなくなって、あの男の子たちにも胸を張って自分の職業を言えるようになる。
「そうしたら、私に授けられたこの力も使い道がなくなってしまいますね……」
@ -203,7 +203,7 @@ tags: ['novel']
「あまりにも美しすぎるから亡くなってしまうかもしれない」
「そんな――お上手ですね」
「嘘じゃないよ。君だってドレスをじかに目にしただけで死んでしまいそう、と言ったじゃないか。扱うべき者が扱えば効力は倍増される。兵器と一緒だ」
 管制官はひとしきりの賛辞を私に送ると「そろそろ時間だ」と告げ、今日一日はドレスを着たまま楽しんでいていいと許可を与えてくれた。彼が部屋から去った後、すっかり調子に乗った私は床を静かに蹴って宙に浮かんだ。
 管制官はひとしきりの賛辞を私に送ると「そろそろ時間だ」と告げ、今日一日はドレスを着たまま楽しんでいていいと許可を与えてくれた。彼が手紙を持って部屋から去った後、すっかり調子に乗った私は床を静かに蹴って宙に浮かんだ。
 あまりにも軽く薄いオーバードレスの生地がふわりとたなびいた。漆黒の世界でも思い描けば私は部屋に咲く一輪の花だった。
 固い木材の天井に、おでこがこつんと当たった。
 リザが遅い昼食の時間を告げに部屋に来るまで、私はそのままでいた。
@ -303,7 +303,7 @@ tags: ['novel']
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”一九四七年十一月一日。ケルンは今日も煙くさいです。街のあちこちがまだもくもくしています。私のせいです。もっと戦闘機を落とせていたらこんなことにはならなかったのに。今日は同僚のリザちゃんの話を書こうと思います。彼女も私と同じで、役目を持って生まれた子どもでした。私の目が光を映さないように、彼女は手足が一つもありません。せめて格好だけでも普通にさせようとして、家具職人の父が地元の木で作った義肢をこしらえたそうですが、あいにくどんなに力を込めても動かすことはできません。"
”一九四七年十一月一日。ケルンは今日も煙くさいです。街のあちこちがまだもくもくしています。私のせいです。もっと戦闘機を落とせていたらこんなことにはならなかったのに。今日は同僚のリザちゃんの話を書こうと思います。彼女はイタリア人です。私と同じ、役目を持って生まれた子どもでした。私の目が光を映さないように、彼女は手足が一つもありません。せめて格好だけでも普通にさせようとして、家具職人の父が地元の木で作った義肢をこしらえたそうですが、あいにくどんなに力を込めても動かすことはできません。"
 チーン。私はレバーを引き上げるついでにリザちゃんの様子を見にいった。椅子から立ち上がって一回転。前へ進む。そのうち扉に手がぶつかるので部屋を出るぶんには歩数を数える必要はない。
 壁伝いによりかかって何歩か歩いて、隣の部屋のドアノブに手を触れる。だいたいの見当をつけてドアを軽くノックした。
「リザちゃん? 調子どう?」
@ -321,7 +321,7 @@ tags: ['novel']
「ふうん」
 少しの沈黙を隔てた後、ぽつりとリザちゃんが謝った。
「ごめんね、お世話できなくて。一人じゃ着替えとか、大変でしょ」
「ううん、最近はちょっとこつを覚えてきたつもり」
「ううん、最近はちょっとコツを覚えてきたつもり」
 手をぱたぱたと振って否定したが、それをすり抜けて彼女のオーク材の指先が私の襟口を不器用につまんだ。
「でも服の後ろ前が逆だわ」
「え、ほんと」
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「それ、なにを持っているの」
 前に歩いて手を差し出すと、直後、すごい音がして、私は後ろに押し倒された。お腹の辺りがじんじんとしたので、手でまさぐると石ころのようなものが見つかった。
「えいっ」
 投げつけられた石ころを投げ返すと、鋭い悲鳴が部屋中にこだました。男の人がそういうふうに叫ぶのを初めて聞いたので、私はとてもびっくりした。どんどん石ころが投げつけられたので、私も一生懸命に投げ返した。白い線のお人形が全部見えなくなった後、管制官が部屋に入ってきて「遊びは楽しかったかい」と尋ねたので、私は正直に「ううん、あんまり」と答えたのだった。
 投げつけられた石ころを投げ返すと、鋭い悲鳴が部屋中にこだました。男の人がそういうふうに叫ぶのを初めて聞いたので、私はとてもびっくりした。どんどん石ころが投げつけられたので、私も一生懸命に投げ返した。白い線のお人形が全部見えなくなった後、管制官が部屋に入ってきて「楽しかったかい」と尋ねたので、私は正直に「ううん、あんまり」と答えたのだった。
 鉄臭い匂いは、施設に入って初めてお風呂に浸かる許しが得てからも、しばらくとれなかった。
 私が第三帝国で唯一の国家魔法少女として正式に階級章を授けられたのは、その日から始まった訓練を終えたさらに一年半後の話。
 リザちゃんも同じような訓練をしたのかな。今度聞いてみよう。
”私たち二人でケルンの空、オランダやベルギーの海を守っています。こないだは失敗してしまったけれど、今度こそ目標を全機撃墜したいです。お父さんもベルギーの前線で勇猛果敢に戦っていると管制官がおっしゃっていました。離れ離れに暮らしているのは、やっぱりまだ少しさみしいですが、親子揃って帝国に殉じていることを誇りに思います。いつか、祖国に勝利をもたらすその日までお元気で。ハイル・ヒトラー”
 私は手を伸ばして紙面をタイプライタから外した。机の上に準備しておいた封筒に合わせて紙面を折りたたんで、なんとか便箋に仕立てる。最後に切手を封筒の上に貼り付けると、椅子から立ち上がって左に五歩、手に取った鞄に封筒を入れて、右に三歩。今月からは忘れないように外套を羽織らないと寒くていけない。
 くるりと身体を回転して、ドアに手がぶつかるまで進む。触れたらすぐに引っ込めて、ドアノブを優しく掴んで回す。ドア横に立てかけた杖を掴んで、隣の部屋に呼びかけた。
「リザちゃん。 お手紙をポストに入れてくるね」
 すると、部屋の奥からがたごとと音がして彼女が答えた。
「待って、私もついていく。リハビリしないと」
 案の定、