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@ -43,7 +43,7 @@ tags: ['novel']
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そんな一介の女優でしかない彼女が、どういうわけか合衆国政府に登録されている最上等級の魔法能力行使者で、そのために出動を要請する召集令状が下されたのは果たして幸運だったと言えるだろうか。映画の興行収益はすでに確約されたようなものだ。
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実在の軍人の役を演じる女優が、本当に軍人となって戦争に赴く――どこぞの出版社に提案したら「話ができすぎている」と即ボツを食らいそうなあらすじとはいえ、しかしこれはまごうことなき現実である。世論は大いに湧いた。いかに無敵に等しい戦略級魔法能力行使者であっても、無垢な少女を戦争に駆り出すのはどうなのだ、ともっともらしい道徳論を説く者があれば、しきりに言葉尻を捉えて無垢な少女だと良くないのか、じゃあ素行不良の少年なら構わないのかといった反論が打ち出され、少女性をことさらに重要視するのはセクシストだしエイジズムだとの論陣が張られた。
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そうは言ってもおっさんだったらどうせ誰も気にしないのだ、真に弱いのは女子どもでも障害者でもなく五体満足の中年男性だ、という意見がSNS上で万バズを獲得し、対して国家が強制的に戦争に駆り出させるなどそもそもが言語道断との進歩的見識が各メディアに並ぶも、西側諸国でもなにげに徴兵を実施している国々には都合が悪く言葉を濁さざるをえない。そうして喧喧諤諤にやり合っているうちに誰も彼も飽きはじめて、もう本人が決めればいいじゃん、それが民主主義であり自由主義国家の姿だろう、みたいな粗雑な結論が持ち出される始末。かくして、西側陣営を占める十数億人の責任は選挙権すら持たないたった一人のティーンエイジャーに丸投げされたのだった。
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世間は彼女が招集に応じるかどうかおよそ半々と見ていたが、いくつかの非公開の条件と引き換えに割とあっさり合意した。その日、各国の酒場では徴兵拒否に賭けていた方の札束が宙に舞ったという。彼女は自らに課せられた一年間の軍事教練もきっちりこなしたので、途中で逃げ出す方に賭けていた方も遠からず私財をなげうった。
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世間は彼女が招集に応じるかどうかおよそ半々と見ていたが、特に悶着もなく驚くほどあっさり合意した。その日、各国の酒場では徴兵拒否に賭けていた方の札束が宙に舞ったという。彼女は自らに課せられた一年間の軍事教練もきっちりこなしたので、途中で逃げ出す方に賭けていた方も遠からず私財をなげうった。
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今のところ、なぜ戦争に行くのかという肝心要の質問には曖昧な回答を繰り返している。愛国心がどうとかなんとか、みたいな話も彼女の世代では今時やりづらいだろう。そんなダサいことを言ったら一日の間にフォロワーが七桁は減る。もっとも、今となっては数億人のフォロワー数を誇る彼女にはどのみち関係がなさそうである。いずれにしても、理由は分かっていない。若い世代を代表するアイドルであり、女優であり、兵器であり、広告塔でもある彼女の本心は謎に包まれている。
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もし、そいつが掴めたら私もしがないフリーライターから脱出できるのだが。
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「ところで、ジョン・ヤマザキさん。あなたは日系人?」
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@ -509,7 +509,21 @@ tags: ['novel']
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夢か幻のような一瞬の出来事だった。
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合衆国政府最強、国連軍指定の魔法少女が、敵の魔法少女をさらっていなくなった。
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現実を受け入れられずに空を仰いで固まったままの私を正気に戻したのは、尖塔の方から聞こえるエドガー少尉の声だった。
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「一列だ、そのまま歩け。止まるなよ」
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両手――たまにどちらかが、あるいは両方ともないのもいる――を後ろに回して、尖塔のエントランスからぞろぞろと出てきたのは一様に皮膚が土気色の兵士たち。全員が武装解除された状態で、こちらの兵士たちの誘導に従って歩いている。呆けた雰囲気をしているであろう私に気づくと少尉も上を仰ぎ見た。
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「上の階から見てましたよ。行ってしまったんですね、彼女ら」
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「そのようだ」
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予めすべてを知っていた口ぶりの少尉にようやく私は問う。
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「分かっていたんだな」
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「バレちゃ仕方がないですね。彼女を訓練したのは我々です」
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横を見ると、戦闘車輌の後部座席に次々とTOAの兵士たちが収容されていく様子が見えた。
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「殺さないのか」
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あくまで淡々と、そっけなく少尉は肩をすくめて答える。
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「そりゃムカつきますけどね。腐った死体みたいなやつらに散々ニガーだのなんだの言われるのは。でも、殺すべきかどうかは私の判断することじゃない。決めるのは法律だ。我々はそういうふうにやっていくしかないんです」
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全員の収容が終わると、エドガー少尉は衛星通信で国境外に待機している部隊と連絡をとった。想定以上の捕虜を護送しなければならなくなったので自分たちが帰るための追加の車輌が必要になったのだ。
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かくしてTOAことトゥルース・オブ・アメリカは解体された。ことが終わると真夏の太陽がよりいっそう激しく、私を照らしていることに気がついた。
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