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Rikuoh Tsujitani 2024-04-28 21:23:45 +09:00
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title: "束になって浮かれる"
date: 2024-04-28T20:14:21+09:00
draft: true
tags: ['diary']
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思いのほかとんとん拍子に物事が進み、来月から新しい職場で働くことになった。そう、僕はこっそり転職活動をしていたのである。転職先はGoで書かれた非対称鍵暗号基盤を自社製品に持つ受託企業だ。もちろん将来的にGo案件にありつく機会を狙ってのことでもあるが、選考の過程でCTOの方と技術選定に纏わる問題意識が一致していたところが大きい。
インフラ寄りのSEからPGに鞍替えする形となったので年収はさほど上がらなかったものの、福利厚生は申し分なく晴れてリモートワークの権利も獲得できた。そんなわけでゴールデンウィークを前にあらゆる問題が完全に解決する見通しとなった僕は、浮かれに浮かれきった気分で待望の休暇を迎えた。
日曜日。関東圏では微妙に天気の優れない日が続く長期休暇にあってこの日だけは快晴が確約されていた。折しもお気に入りのサンダルの靴がめくれてしまったのを口実にして、さっそうと東京へと出向く。このサンダルブランドの旗艦店は原宿に建てられているからだ。
ただでさえ人混みの多い街の、よりによって混みに混む日曜日、加えてゴールデンウィークのまっただ中のこの日、いつもだったらどんな理由があろうとも決して行く気にはならなかっただろう。しかし、今の僕は浮かれている。浮かれている人間は通常とらない選択を取るものだ。ゆえに僕は原宿に行かなければならない。
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そうしてまだ4月だというのに30度近い熱気の下、原宿までやってきたのである。比喩が現実を超越する文字通りすし詰め状態の電車から排出されてみれば、どこを見渡しても人、人、人……。東京の一つの街の、たった一つの通りにこれほどの人間がひしめいている。ありとあらゆる店が人間たちによって占められている……。店という店の軒先から伸びる長蛇の列は、もはやどれがどこの頭に繋がっているのかも分からない。
そんな道理の分からぬ苦境の中にあっても人々の顔は涼しい。僕もいつもの半分にも満たない速度で悠長に街を歩く。なぜなら誰も彼も浮かれているからだ。街全体に弛緩した雰囲気が伝播して、あたかも一つの束となって浮かれている。神経を張り巡らせているのは相手をする店員の方だけだ。それについては誠に相すまなかったと言うほかない。
幸いにもサンダル屋は割と空いていた。すでに買うべき商品にはあたりをつけておいたので、試着を申し出てサイズを確認する。僕の最適なサイズは26.5cmだが、サンダルの場合はハーフサイズ大きめくらいがちょうどよかった。用事が済んだので特に意味もなく徒歩で渋谷に向かう。
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スクランブル交差点の圧倒的な人だかりの前にはさしもの原宿も霞んで見える。全国各地、いや、世界各国から吸い寄せられた人々が今日この瞬間、この地で互いに面識を交わすこともなくただ行き交う。信号機が緑を示すたびに数百人もの人間が一斉に交差する。いつもはスーツを着たサラリーマンたちが規律正しく往来するこの空間も、今日この日はだいぶ浮かれ濃度が濃い。
ただ愚直に消費を敢行する生物として、我々はひたすら空間という空間を占める。東京において空間を占める料金はタダではない。まともに座ろうとすると直ちに金が発生する。300円や500円で居座れる空間が即座に人間で敷き詰められるのは常のこと、今日に限っては1000円近くもする純喫茶さえも人々によって占められ尽くされていた。
次から次へと空間を収奪せんと空席を虎視眈々と狙う旅客を前にしては、ゆっくりコーヒーを啜りつつ読書というわけにもいかない。空間の独占はこの地では重罪だ。ゆえに移動し続けなければならない。原宿、渋谷ときて、次は東京駅、神田、秋葉原へと歩みを進めた。秋葉原では歩行者天国が盛況を極めていた。
次に買うラップトップとして、ThinkPadの他にLG gramが気になっていたのでこの機会に物色しておく。あまり知名度がないのか大きい店に行かないと実機が置いていない。触った感じ、なかなか良さそうだった。Linuxとの相性が悪くなければ次はこっちに買い替えてみるのも手かもしれない。
ほどよいところで日が落ち、辺りには夕闇が広がりはじめていた。アメ横で買ったクレープを食べながら帰る。別に名店と言うほどではないがチェーン店の中では「マリオンクレープ」が一番美味しいと思う。生地がしっかりしている。ちなみに本店は原宿の竹下通りにあるが、今日あそこで買うとしたらディズニーランドの人気アトラクション並みに苦労しなければならないだろう。アメ横で食べても味は原宿だ。
僕が書く文章にしては珍しくオチがない。浮かれている人間は自分が娯楽を提供される側だと思い込んでいるので、他の人間に差し出す気がさらさらないのである。