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そのエレベータはとても大きかった。背の高い男の人四人に加えて、私たちが乗り込んでもまた余裕があるように感じる。湿った踵で地面をかつんと叩くと長方形の壁が視界の中に淡く描き出された。誰かが格子戸を締めた後、都会っ子代表パウル一等兵の操作によって床がぐらぐらと揺れはじめた。
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途端に、なんとも言えない奇妙な気分が胃袋の奥から喉にせり上がってきて、私は思わず踵を浮かせてしまった。自分の意思に反して、空気の流れも感じないのに全身が沈み込んでいるようなこの感覚がたまらなく嫌だった。
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「痛っ」
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「おい、大尉殿が浮いているぞ」
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がん、と金属質な音が鳴って長方形の箱が傾いだ。知らない間に箱の天井まで浮き上がっていたらしい。
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「誰か脚を引っ張って――」
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あまり口を開きたくなかったので手短に言う。
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さっそく様々な形の手が一斉に足首を掴んで引き下ろしてくれたものの、意味もなく頼りなさげに私は浮き上がり続けたままだった。一体、このエレベータはいつまで下に降り続けているのだろうか。
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「吐いちゃったら、ごめん」
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せめてもの配慮として私は両手で口を覆った。今や私の全身はアルファベットの「C」より折り曲がっていそうに思えた。頭ではなく背中が天井にくっついていた。
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幸いにも、私の吐き気が限界を迎える直前にエレベータは静まった。直後、気の抜けた私の身体は浮力を失って床に墜落しかけたけれど、寸前のところでパウル一等兵が私を抱きかかえてくれた。
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「今の大尉殿は紙飛行機だなあ」
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調子に乗って毒づくエレベータ慣れした都会っ子に私は言い返す気力もなかった。
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エレベータを出た後は延々と長くて細い通路が続いた。いよいよ事態が核心に迫るに至って、各自下げていた小銃が再び持ち上がる。もし通路の奥に敵が待ち構えていたら、こんな狭い通路ではひとたまりもない。踵を踏み続けて当面の視界を得た私とリザちゃんが前面に出て、残りは半身の姿勢で進む陣形に切り替えた。
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「私は撃たれるまで敵が見えない。リザちゃんお願い」
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「私がやったら通路ごと吹き飛ばしちゃうかも」
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リザちゃんは「ぱんぱん」が大の苦手なのだった。でも今は仕方がない。どのみち壊す予定の建物に気を使っていられない。
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しかし、待てど暮せど敵はおろか、誰も通路の先には現れなかった。ここが研究所なら科学者やお医者さんみたいな人がいてもおかしくないと思っていたのだけれど、そういう人もここには見当たらない。
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結局、最初の手がかりは突き当りの分かれ道にかかっていた看板で見つかった。ハンス一等兵が読み上げる。
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「右、神秘部」
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「左、人事管理部」と続けて言う。「どちらに行くべきははっきりしているな」伍長さんが声を張った。
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