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title: "論評「哭悲」:究極の暴力"
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date: 2024-06-25T20:42:42+09:00
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draft: true
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tags: ['movie']
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先週の土日はまことにファックネス(ファックの抽象名詞)であった。オフィス内で蔓延していた喉風邪の煽りを受けて療養を余儀なくされていたのだ。具合が悪いと本当になにもできなくてすごい。子どもの頃は居間に布団を敷いてもらってそこで普段は観られない平日のテレビ番組や映画などを楽しんだものだが、なぜか今はそううまくいかない。話が頭に入ってこないからだ。
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あるいは、もしかすると在りし日の少年陸王は話の内容を捨象して映像の動きだけを追っていたのかもしれない。昔も今もカメラワークにうるさい性格だった。それはともかくとして、日曜日の昼あたりには体調不良なりに映画を観てもよい体制が整っていた。こういう時に観る映画はとことん過激なものでなければならないと僕の中では決まっている。
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心身が弱っている時、あえて甘いお菓子ではなく激辛スープを求める人がいるが僕もそういう手合いに入る。毒をもって毒を制しようというわけだ。そんな時のために抑えておいた作品こそが他ならぬ「哭悲」である。台湾発の超問題作として知られる本作には90分の短尺の中にありとあらゆる暴力が凝縮されている。まさに究極の暴力を観ることができるのだ。
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## 殴る、蹴る、千切る、抉る、犯す
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本作は大別するとゾンビものか、パンデミックものに該当すると思われる。未知のウイルスに感染した人々は例外なく理性を失い、際限のない暴力衝動を周囲に撒き散らす。ゾンビと言ったが腐敗はせず、知性もさほど衰えてはいない。意思疎通はできなくもないし、道具を操り連係をとる一面もうかがえる。ただし、それらの一切は暴力の達成にのみ用いられる。説得は不可能だ。
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運動能力も健在なばかりかバイクで逃げ惑う相手を全力で追いかける機敏さを誇り、小手先の反撃には怯みもしない耐久力をも併せ持つ。一連の設定にはかの名作『28日後……』の影響をうかがわせつつも、極限まで客層を絞りバイオレンスの拡充が図られている。というのも本作の感染が失っているのは厳密には理性ではないからだ。
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大抵の作品の感染者は「本能で行動する」だとか「暴力的になる」と言った説明が為されるが、本作の場合は暴力は暴力でもただの暴力では済まない。よりサディスティックに、より非倫理的な暴力を行使する形に感染者たちが突き動かされていく。それらの一例は物語の冒頭時点ですでに垣間見ることができる。
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作中で最初の感染者は飲食店の店員を殺す際に、あえて煮えたぎった油の入ったフライヤーを浴びせた後に手で皮を剥いで嬲ろうとする。道端で男性を押さえつけた複数の感染者たちは、階段の段差で腕の骨を折って楽しむ様子を見せる。ただの単純な暴力衝動の発露させているのであれば、なにもそこまで”工夫”する必要はない。感染者たちはあえて相手を苦しませているのだ。
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