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Rikuoh Tsujitani 2024-02-03 22:19:08 +09:00
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 雪が降ってきたらしい。これは手紙に書けそうな気がする、とリザちゃんの足音を追い続けながら頭の中で帳面を開く。たくさんのお手紙を書いて分かったのは、お天気とか季節のお話から始めると書きやすいということだった。
”一九四六年十一月三〇日。私は現在、特別な任務を遂行すべくポーランドに出兵しています。このお手紙はお父さんのお手元に届く頃にはちょっぴり湿っているかもしれません。というのも、今まさに雪が降っているからです。もちろん、音もなく地に舞い降りる雪の姿は私の目には映りません。肌をなでる冷たい感触が私に雪を感じさせます。小さい頃、地面に積もった雪をすくって食べていたらお父さんに怒られましたね。案の定、あの後にお腹を壊してトイレから出られなくなったのを覚えています。行軍中にそうなったら大変ですが、今では私もお姉さんなのでもうそんなことはしません。”
 どこかで、チーン、とタイプライタの音が鳴ったような気がした。いやしかし、改行を知らせるには遅すぎるし音程も変だ。そもそもこれは頭の中で書いているお手紙であって本当にタイプライタを叩いているわけでは……。
 私はすぐに他にも聞き慣れた音があったのを悟った。これはライフルに弾を込めた後に聞こえる音だ。
 私はすぐに他にも聞き慣れた音があったのを悟った。これは取りこぼした銃弾が硬い地面の上で跳ね返る音だ。
「敵だ」
 先ほどハンス一等兵が「雪だ」と言った時とほぼ変わらない調子でつぶやいた。どよめくも動きの鈍い部下たちにリザちゃんが息を呑みつつもなんとか大声を繰り出す。
「とっとと伏せなさい!」
 鋭い白線が目の前を瞬時に横切っていった。着弾の音からして真横の木の中に埋まったのだと思われる。続けて、何発もの銃弾が飛来するも、間一髪、彼女の檄が功を奏してそのどれもが人形を模る白線の上を通り過ぎた。
 鋭い白線が目の前を瞬時に横切っていった。着弾の音からして真横の木の中に埋まったのだと思われる。続けて、何発もの銃弾が飛来する。モシン・ナガンの重苦しい銃声が耳を突き刺す。間一髪、彼女の檄が功を奏してそのどれもが友軍を模る白線の上を通り過ぎた。
 射撃精度からして流れ弾ではない。敵はこちらの位置を把握している。
 ならば、と私は腰の革製ホルスターからステッキを抜き取り、切り裂いた空気が封で閉じられていくかのように薄れていく白線の軌跡を追い、その始端に向けて魔法を射出した。
 炸裂音の直後に悲鳴がこだまする。森の中にあって敵の姿は見えないが手応えはある。リザちゃんも追撃の魔法を放つ。
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<それもダメ。ここで被弾のリスクは負いたくない>
「じゃあ、どうするの」
<間をとる。ついてきて>
 白線で描かれたリザちゃんの影がふわ、と浮いて止まった。背の高い木の枝に捕まっているようだった。
 白線で描かれたリザちゃんの影がふわ、と浮いて止まった。背の高い木に捕まっているようだった。
<上からも下から見えにくいように木を伝っていく」
 合点を得て、私も影を追う。一瞬、振り返ってもはやなにも映らない暗闇に向かって叫んだ。
「やっつけてくるね! そこでがんばってて!」
 
 彼女の軌跡を頼りに手を伸ばすと、堅くて柔らかい木々のささくれだった節に触れた。ぎゅっと爪をたてて指先をめり込ませて捕まり、すぐに足で軽く蹴って次の木に飛び移る。何回か繰り返しているうちに慣れてきて、朧げだった同僚の後ろ姿が鮮明に映し出された。彼女が無線機越しにしゃべると、ピンと糸を張ったように繋がっている電波を示す白線がぎざぎざに揺れて波を打つ。
<いた、敵。小隊規模、車輌はなし。やれるわ>
 ごく簡潔な状況報告の後に炸裂音が響いた。私は木から鋭角に飛び出して地面に降り立つ。応射がリザちゃんに集中することを避けるために、未だ音像を結べていない雑然とした白い靄の中にすばやくステッキを振りかざした。さらなる悲鳴。轟音。敵の兵士が叫べば叫ぶほど、応射すればするほどだんだんと私は見えるようになる。
 横殴りの銃弾の雨を避けて真横に飛び、さらに接近する。距離にして十メートルもあるかないかに迫った現況では、ステッキの口径が釣り合わない。ホルスターにしまい込みながら逆の手で拳銃を模る。「ぱん!」撃つ。「ぱん!」別に叫ばなくても小口径の魔法を射出することは可能なのだけれど、なぜか声を出した方が調子が良い。白い糸に包まれたようなお人形さんの頭が割れた風船のように弾けて地面に崩折れた。
 私たちとの戦力差を認めて撤退を始めた敵に向けて、さらに手のひらから放つ大口径の魔法をお見舞いする。地面をえぐる白い光が幾人かの遠ざかる人影を包み込んで消し飛ばした。たちどころに銃声が止んで、静寂が訪れる。
「やっつけた?」
「やったわ」
 木から下りたリザちゃんの地声が耳に届いた。後方からざくざくと音がして、私たちの部下の到着した。
「ご無事でしたか」
 伍長さんがおずおずと言い、他の一等兵さんたちは黙りこくって息を呑んだ。パウル一等兵でさえなにも喋らなかった。
 わずか五分足らずで敵小隊を一掃したとはいえ、むしろ戦況は悪化したと言っていい。本体であるところの大隊もそんなに遠くには離れていないだろうし、今しがたの轟音を聞きつけてすぐにでも百人規模の歩兵と戦車がここに殺到してくるだろう。潜伏から数週間が経ち、ついにそれは破られたのだ。

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title: "太巻きへの偏愛"
date: 2024-02-03T22:17:04+09:00
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節分である。世間では鬼を外に放逐せしめるべく豆をぶつける行事が主と捉えられているが、僕の中ではもののついでとばかりに売り出されている恵方巻きの方がよほど嬉しい。というのも、おおよそ太巻きと定義されうる食品のすべてが僕の好物に当てはまるからだ。正直、具の中身は割となんでも構わない。海苔と白米の懐は日本海溝よりも深い。
しかしリアルな伝統に裏打ちされた豆まきとは異なり、恵方巻きの依拠するバックグラウンドストーリーはだいぶ疑わしい。なんでも昔の関西地方にそういう風習があったとかなかったとかそんな具合らしいが、現実、恵方巻きがそこかしこで手に入る昨今の状況は誠に遺憾ながらセブンイレブンの商業的動機によるものに過ぎない。
とはいえ、まあ、細かい話はどうでもいいじゃないか。僕はただ太巻きが食べたいだけなんだ。どういうわけか巻き寿司の扱いは握りと比べて微妙に芳しくない。巻いてあっても大抵は細巻きでダイナミックさに欠けている。別に中身が海鮮じゃなくたっていいんだ。色んな種類の太巻きをいつでも売ってくれればいいのに、現状それらの需要は今日この日、すなわち節分にのみ集中している。
ならば、一丁乗るしかないだろう。恵方巻き文化が定着してからこっち、食品メーカー各位の便乗商法が功を奏してとにかく巻いてあればあやかれるだろうとの目論見通りに、節分の日には全国の至る場所で、ありとあらゆる種類の「恵方巻き」が売られている。僕が理想とする日ノ本の光景が目の前に広がっているのだ。今日だけは「まるごとバナナ」も恵方巻きだ。
午前十時、僕はそろりと外套を着込み近所のイオンへと赴く。恵方巻きを買うとなったら断然、イオンだ。まず品切れという概念が存在しない。群がる無数の買い物客どもが品物を手に取る端から、次々と新たな恵方巻きが陳列棚に供給されていく様はまさに圧巻と言わざるをえない。
次に、品数の種類だ。先ほど言ったように僕は恵方巻きの中身はなんでもいい。なんでもいいというのはランダムに一つ買うという意味ではなく、どんな中身であれ買えるだけ買うという意味だ。といっても、各店で手に入る恵方巻きを手当り次第に買うのは手間だし、具材の大部分が被っているものを複数買うのは非効率極まる。
そこへいくとイオンは膨大な売り場面積を十全に活かして恵方巻きの差別化を図っている。本まぐろ一本で勝負するシンプルな恵方巻きから、大量の具材がぎちぎちに詰まった高級志向のものまで、レパートリーの豊富さには事欠かない。後は自分の胃袋のサイズと相談すればいい。実際にそれをやった結果が、記事冒頭の投稿である。実に壮観であろう。
## 海鮮五福恵方巻き
![](/img/256.jpg)
その名の通り、五つの具材が入っている。上位モデルに七つの具材が支配する海鮮七福恵方巻きも存在しているが、僕は数の子があまり好きではないのでこちらを選択した。計算され尽くした魚介のハーモニーが相乗して舌を歓喜せしめたのも束の間、いたずらに具材を詰め込んだ太巻きがまともな形状を保てるはずがなく、数口食べた途端にあっけなく瓦解の憂い目を見ることとなった。
今さら言うまでもない話だが、今年の方角は南南某だとか、食べきるまでは沈黙を保つだとかいう謎ルールは、単に太巻きが好きでこのイベントに一口乗っている僕には一切適用されない。ママンと談笑しつつ映画を観ながら全然普通に食べた。スクリーンの中のジョン・ウィックは息苦しそうだったが、僕はゆっくり食べているのでちっとも苦しくない。
他にもほたてなどを主力に据えた三種類入りの恵方巻きも食べた。どう考えてもこっちの方が完成度が高い。海鮮丼のように丼の中で一緒に食べたい刺し身を自分で都度選べるのならともかく、すべてがFになる太巻きの世界において五種類や七種類は明らかにバランスを欠いていると評せざるをえない。だがなぜか毎年必ず一つは選んでしまう。行楽地でやたらデカいだけのホットスナックを買ってしまう時の心境と似ている。
## キンパ
![](/img/257.jpg)
「まるごとバナナ」で恵方巻きにあやかろうとする商魂たくましさが通用するのなら、当然、異国から舶来せしダークホースであるキンパも恵方巻きに数えられる。迫る多様化の波を韓国のりでできたサーフボードで乗りこなす胆力がなければ今後の恵方巻き界を生き残ることはできない。
肝心の味はというと、まあ普通にキンパだ。学生の頃に初めて行った韓国で食べたキンパの味に衝撃を受け、大量に買い込んでは店員にカタコトの日本語でツッコまれたのも今は昔。令和の日本ではコンビニでもキンパが売られている。そういう意味ではありがたみは薄れてしまったものの、特別な日に作られたキンパなだけあって割に上等な具材が用いられている。
このキンパの選択肢が浮上する前にかなりの種類の恵方巻きをカゴに入れてしまっていたので、やむなくハーフサイズに甘んじてしまったが次回はフルサイズを買ってもいいかもしれない。それにしてもこの頃の韓国フードの躍進ぶりは目覚ましい。昔はなにかとネット上で執拗に叩かれていて孤独な戦いを強いられたものだった。あの匿名掲示板の連中も今時分はキンパや辛ラーメンを食べてみたりしているのかな。
## ヒレかつ巻き
結論から言うと僕が一番好きな恵方巻きはヒレかつ巻きだ。その証拠に画像がない。今週は恵方巻きの話を書こうと思いついた時点で、フルサイズ二つぶんも用意してあったヒレカツ巻きを初手で食べ尽くしていたからだ。変わり種にしてもさすがにこれはどうなんだと訝しむ声もありそうだが、僕はここではっきりと言っておきたい。
数ある恵方巻きの中で、ヒレかつ巻きの潜在価値がもっとも高い。なぜなら買うと値段は安いのに、自分で作ろうとすると急に難易度が跳ね上がるからだ。きょうび、恵方巻きをホームメイドする試みは実施しつくされていて、もちろんイオンにも多くの材料が売られている。異国グルメのキンパでさえ作るのはそう難しくはない。
一方、ヒレかつ巻き。こいつはそうはいかない。兎にも角にもカツを揚げないことには始まらないが、まずそこからしてすでに面倒くさい。その揚げたてのカツをわざわざ常温程度に冷まさないといけないのも割に合わない。さらにはそうやって揚げたカツを、なんらかの工夫でもって太巻きの内径に適合させなければならないのだ。揚げる前に切ってもいいが計算が狂うとかなり貧相になる。
ところがこのヒレかつ巻き。近所のイオンに併設されているとんかつ屋では500円ちょっとで売られている。最初に紹介した五福なんとやらが1400円くらいもしたことを考えるとまさに圧倒的なコストパフォーマンスだ。して、500円で十分に設計された商品が手に入るのに、なぜわざわざ自分で冷ます前提のカツを揚げる必要がある
しかもこのヒレカツ巻き。僕の知るかぎり節分の日でなければ手に入らない。全国のどこかには通年販売している地域があってもおかしくなさそうだが、少なくともさいたま・浦和の地ではとんと見かけた覚えはない。ゆえにヒレカツ巻きは僕にとって最高にめでたい恵方巻きであり、一年に一度しか食べられないレジェンドレア級の代物なのである。
だから今年はフルサイズのヒレかつ巻きを二つも買った。来年はたぶん三つ買う。しかし他の恵方巻きの分量を減らすわけにもいかないので、いっそ当日中に食べ切る戦略を諦めて二日がかりで楽しむとか、翌々日の弁当にも転用するといった長期的計画を検討しはじめるべきなのかもしれないな。

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