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Rikuoh Tsujitani 2025-03-12 16:10:01 +09:00
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title: "生地選び"
date: 2025-03-11T10:47:42+09:00
draft: true
tags: ['diary']
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鞄と靴が一通り揃ったので次はテーラードジャケットとトラウザー、すなわちスーツを選ぶ。こういう話をすると周りからは大抵怪訝な顔をされる。「せっかく背広など着ずに済む職業なのに、ずいぶん面倒な真似をするぢゃないか」とは友人の弁。しかし、僕は三十路過ぎまで生きてきて自分の性癖を十分に理解した。僕は面倒くさいことをするのが好きなのだ。
今こうして書いている文章からしてそうだ。わざわざ面倒くさいLinuxディストリビューションを立ち上げ、面倒くさいウインドウマネージャ上で面倒くさいエディタを使って面倒くさい自作キーボードを叩いてブログをしたためている。言い回しも面倒くさそうだし、ブログ自体も面倒くさい方法で構築されている。家に帰ったらまずは革鞄と革靴をブラッシングする。月一でクリームも塗る。
であれば、服飾の関心もいずれ面倒くさそうな方向に進むのは当然の帰結であった。これまでの人生でスーツを着なければならない時期がほぼなかったために発見が遅れていただけに過ぎない。とはいえ、難易度はこれまでとは比べものにならない。なにしろ現代の日本で面倒くさい服を着こなすのは非常に困難が伴う。
たとえば、わざわざ面倒くさくするからにはもちろん素材も面倒くさいものを選びたい。ポリウレタンやナイロンなどの機能性素材を避けてあえてウール100を選ぶ。やっていることは鞄や靴と同じでも我が国の気候がその前に立ちはだかる。現代の日本に四季があるなどというのは真っ赤な嘘であり、実質にはまあまあ暑い夏と、殺人的に暑い夏、そして短い冬しかない。北方では単純にこれが逆転する。
そのような過酷極まる条件下にあたって、ウール100の服を着るのはたいへん辛い。となると真夏だけジャケットを脱いでリネンのシャツを一枚だけ着るとか、いっそジャケットもリネンにしてしまうなどの工夫が要る。工夫が多くなければなるほど揃えなければいけないバリエーションの数が増え、すさまじい勢いでお金が飛んでいく。
服飾の世界は鞄や靴よりも格段に財布への当たりが強い。僕は何個も持っているが、たとえ持っている鞄がお気に入りの一つだけだとしても自己表現にはさほど事欠かないだろう。靴も、やはり僕は何足も持っているがせいぜい二、三足もあれば事足りなくはない。対して服はたとえ二桁の上下セットを持っていていてもまだ倹しい方とされる。ファストファッションの流行がワードローブの限界を押し広げてしまったのだ。
この状況を鑑みると、一着あたりの単価が高いフォーマルでトラッドなスタイルで自己表現を貫徹するにはかなり険しい道のり予想される。季節感、組み合わせ、考えるべきことは山ほどある。しかし、その面倒くささこそを僕は求めていたのであった。革を手懐けられるなら毛や綿だってなんとかなるだろう、たぶん。
さしあたってはまずスーツのことを調べなければならなかった。今回はさすがに仕立ての細かい仕事の質にまでは気を払えない――一着あたりに十何万もかけていたらトライアンドエラーを積み重ねていく上では非効率だからだ。当面は生地自体の品質が満たせていればよいとして、幸いにも今時はまさしくそういう渡りに船的な選択肢が存在している。
[KASHIYAMA]()というテーラーは創業百年の老舗ながら中国・大連に自社工場を建てて、オーダーメイドのプレミア感とコストパフォーマンスを両立させているとのことだった。実際に[注文ページ]()を見ると、生地からなにからずいぶん細かく選べるようでオタク筋が刺激される。前から思っていたがファッションの世界って完全にオタクだ。確かに輸入生地のスーツが5、6万円で仕立てられるのはすごい。
つまり、合計10万円ちょっとも出せば春夏用のジャケットとトラウザーが2つずつ手に入る。僕の期待するフォーマル度を下回らなければ必ずしも上下を揃えて着る必要はない。というか、上下を揃えて着るつもり自体がもともとなかった。僕の求めるフォーマル度はビジネスフォーマルの一歩後ろくらいだ。雰囲気があえば下はジーンズでも構わない。セットアップで揃えるのはコスパを意識してのことだ。
前述したように真夏では上をリネンシャツにしたりポロシャツに変えればさらに着こなし感が上がってくる。季節が過ぎてまた秋冬になれば今度は厚手の生地でさらに2着を仕立て、チェスターフィールドコートも追加する。これを2、3年も繰り返せば最終的に満足のいくワードローブを構築できるだろう。こればかりは体験と価値観を一致させないとその時々の最良の答えが出せないので、一息に買い揃えて終了というわけにはいかない。
なんとなく予感していたがいざ本気で買うつもりになって輸入生地の歴史や特徴などを調べていたら脳汁が出まくって仕方がなかった。やはり僕は面倒くさいのが好きらしい。それなりに金の余った三十路の男が十年くらいかけて取り組む課題としては、まあ悪くなさそうだ。
ところで、最初の友人との会話には続きがある。「そんなに面倒くさいのが好きならいい加減に所帯でも持ち給え、細君も子もいない人生ではそれこそ先細りぢゃないか」僕は切子を置いて「それは言うな」と答えた。所帯なんて持ったら最後、勢いで革靴を買って帰った日には家の門を締め切られてしまうよ。

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title: "生地探しの旅"
date: 2025-03-12T16:08:42+09:00
draft: false
tags: ["diary"]
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[前回](https://riq0h.jp/2024/12/04/173617/)の新シリーズ。鞄と靴を一通り刷新せしめたので次はテーラードジャケットとトラウザー、すなわちスーツを手に入れる。こういう話をすると周りからは大抵怪訝な顔をされる。「せっかく背広など纏わずに済む身分なるに、ずいぶん面倒な真似をするぢゃないか」とは友人の弁。だが、僕は三十路過ぎまで生きてきて自分の性癖を十分に理解した。僕は面倒くさいのが好きなのだ。
今こうして書いている文章からしてそうだ。わざわざ面倒くさいLinuxディストリビューションを立ち上げ、面倒くさいウインドウマネージャ上で面倒くさいエディタを使って面倒くさい自作キーボードを叩いて面倒くさい言い回しでブログをしたためている。このブログ自体も面倒くさい方法で構築されている。家に帰ったらまずは革鞄と革靴をブラッシングする。月一でクリームも塗る。
であれば、服飾の関心もいずれ面倒くさそうな方向に進むのは当然の帰結であった。これまでの人生でスーツを着る機会があまりなかったために発見が遅れていただけに過ぎない。その上で、どうせ面倒くさい服を着るからにはもちろん素材も面倒くさいものを選びたい。ポリウレタンやナイロンなどの機能性素材を避けてあえてウール100を選ぶ。
しかし合成皮革を本革に替えるのとは異なり、日本の気候においてこの選択は非常に困難を伴う。現代の日本に四季があるなどというのは完全なフェイクニュースであり、実質的にはまあまあ暑い夏と、殺人的に暑い夏、そして短い冬しかない。北国では単純にこれが逆転する。どっちに転んでも天然素材には嬉しくない。夏の前には雨季があり、夏の後には台風がやってくる。
このような過酷極まる条件下にあって、ウール100の服を着続けるのはたいへん辛い。学生の頃は見るからに暑苦しそうなスーツ姿で街角を往来しているサラリーマンを目に留めては、よくあんな格好をしていられるものだと訝しんでいたが、まさか十数年余が経って自ら進んで企んでいようとは思わなんだ。人生とはまことに変化の連続である。
加えて言うと、服飾の世界は財布にも辛い。僕は何個も持っているが、たとえ手持ちの鞄がお気に入りの一つだけだとしても自己表現にはさほど事欠かないだろう。靴もやはり僕は何足も持っているがせいぜい2、3足もあれば事足りなくはない。対して洋服ときたら、上下で10着ずつ程度ではまだ倹しい方とされる。ファストファッションの発達がワードローブの上限を押し広げてしまったのだ。
一連の状況を鑑みると、一着あたりの単価が高いフォーマルでトラッドなスタイルで自己表現を貫くにはかなり長く険しい道のりが予想される。季節感、色合い、組み合わせ、シンプルだからこそ方針を強く保たなければあっという間に破綻をきたす。しかし、その面倒くささこそを僕は求めていたのではなかったか。革を手懐けられるのなら毛や綿だってなんとかなるに違いない、たぶん。
さしあたってはまずスーツについての見識を育んでいかなければならない。今回はさすがに仕立ての細かい仕事の質にまでは気を払えない――一着に十何万もかけていたら試行錯誤が捗らずに非効率だからだ。当面は生地本体の品質が満たせていれば良いとして、幸いにも今時はまさしくそんな渡りに船的な選択肢が存在している。
たとえば[KASHIYAMA](https://kashiyama1927.jp)というテーラーは創業約100年の老舗ながら大連に自社工場を建てており、オーダーメイドのプレミア感とコストパフォーマンスを両立させているとの話だった。実際に注文ページを見ると、生地からなにからずいぶん細かく選べるようでたちどころにオタク筋が刺激された。
前から思っていたがファッションの世界って完全にオタクだ。グレーの生地だけでこんなにある。初見ではどれがどう違うのかまるで分からない。きっと知らない人にとってはパソコンのパーツもこんな感じに見えるのだろう。もしLLMがなければ勘所を掴むのに苦労したかもしれない。
![](/img/375.png)
欧州の輸入生地と言うといかにも高価なイメージだが、ステラビエラあたりのイタリア製生地は案外そうでもない。せっかくなので少し背伸びをして高級生地の知見を深めてみるのも一興だ。ありがたいことにセットアップで2着まとめて買うと2割引してくれるらしい。
つまり、合計10万円ちょっとも出せば上等な生地のジャケットとトラウザーが2着ずつ手に入る。これは単にスーツが2組あるのではなく、組み合わせ自由な洋服の部品が合計4つ手に入ることを意味している。必ずしも同じ色同士で着なくてもいいし、カジュアル寄りに着崩すなら下はチパンやジーンズでも構わない。
真夏には逆に上をリネンシャツにしたりポロシャツに変えるとより一層着こなし感が出てくる。季節が巡りまた秋冬になれば今度は厚手の生地でさらに2着仕立ててもらい、そこにチェスターフィールドコートも追加する。これを2、3年くらい繰り返した頃には納得のいくワードローブが構築できているだろう。こればかりは体験と価値観を常時すり合わせていかないと最良の答えが出せないので、一息に買い揃えて終了とはいかない。
なにより重要なのは[色合い](https://kashiyama1927.jp/looks/?kanid=from_header_top_menu_looks)だ。仮に僕が新卒の若手なら一着目に買うべきなのは間違いなくネイビーだが、今の歳で改めて買うにはやや面白みに欠ける。かといって、初手で明るすぎる色合いを選ぶのも相当に勇気がいる。爽やかなライトベージュなどは見るぶんには格好良さげだが、実際に着るとうまくいきそうにないのはなんとなく想像がつく。とはいえ春夏の盛りに暗い色の服を着てもつまらない。うーん、難しい。
結局は兎にも角にも実店舗に行って相談するほかなさそうだ。中にはグリーンやオレンジなどという人によっては一生に一度も着ないであろう色もある。オプションに目を向ければ裏地やボタンの種類からベルトループの有無まで選べる。まったくオタクにもほどがある。だが、それなりに金の余った三十路の男が長期に取り組む課題としては、まあ悪くなさそうだ。
![](/img/376.png)
ところで、冒頭の友人との会話には続きがある。「さような面倒くさいのを好むならば、いい加減に所帯でも営みたまへ。細君も子も持たぬ人生ではそれこそ先細りぢゃないか」僕は切子を置いて「それは言うな」と答えた。所帯なんて持ったら最後、勢いで買い物をして帰った日には家の門を締め切られてしまうよ。

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