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Rikuoh Tsujitani 2024-03-15 13:22:21 +09:00
parent da51cf917b
commit 8b85a040d6

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@ -1,6 +1,6 @@
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title: "たとえ光が見えなくても" title: "たとえ光が見えなくても"
date: 2024-03-01T20:23:06+09:00 date: 2024-03-15T13:22:06+09:00
draft: true draft: true
tags: ['novel'] tags: ['novel']
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@ -74,7 +74,7 @@ tags: ['novel']
 爆撃で暖まった空気による上昇気流がスカートの裾を激しくたなびかせる。ぐるぐると旋回する線の根本は、明らかに彼女が何者かに追われている状況を推測させた。どういうわけか彼女は一向に魔法を撃とうとはしていない。  爆撃で暖まった空気による上昇気流がスカートの裾を激しくたなびかせる。ぐるぐると旋回する線の根本は、明らかに彼女が何者かに追われている状況を推測させた。どういうわけか彼女は一向に魔法を撃とうとはしていない。
 私は接近しながらステッキを振りかざすも――輪郭を捉えきっていない敵にはまず当たらない事実を悟り、やり方を変えることにした。元より、残された魔法能力はもはや心もとない。  私は接近しながらステッキを振りかざすも――輪郭を捉えきっていない敵にはまず当たらない事実を悟り、やり方を変えることにした。元より、残された魔法能力はもはや心もとない。
 限られた力を足元の推進力に替えて、一気に距離を詰めた。蚊のようにうるさい高周波音が視界に像を描く。まだだ、まだ足りない。もっと正確に見なくちゃ。  限られた力を足元の推進力に替えて、一気に距離を詰めた。蚊のようにうるさい高周波音が視界に像を描く。まだだ、まだ足りない。もっと正確に見なくちゃ。
 戦闘機は私にお尻を向けているようだった。ステッキに込められた魔法がその先端に光の刃を灯す。まるでサブマリン・サンドイッチを作る時みたいにして、私はその魔法の剣を戦闘機の胴体に深く突き刺してから真横に両断した。  戦闘機は私にお尻を向けているようだった。ステッキに込められた魔法がその先端に光の刃を灯す。魔法の剣を戦闘機の胴体に深く突き刺すと機体はたちどころに推力を失った。
「リザちゃん!」 「リザちゃん!」
 崩れ落ちていく戦闘機の輪郭を追うのも程々に、唯一の同僚の名前を繰り返し叫んだ。焼ける街の熱が発する生暖かい風を受けながら、性懲りもなく叫んでいると、下の方でかすかに声が返ってきた。  崩れ落ちていく戦闘機の輪郭を追うのも程々に、唯一の同僚の名前を繰り返し叫んだ。焼ける街の熱が発する生暖かい風を受けながら、性懲りもなく叫んでいると、下の方でかすかに声が返ってきた。
「ここよ、私は、ここ」 「ここよ、私は、ここ」
@ -919,19 +919,29 @@ tags: ['novel']
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【演者インタビュー】
 本誌はあらゆる意味で時の人となったメアリー・ジョンソンへの取材に成功した。ヘリポートの横で、五分なら、という条件だった。
記者:本日はお忙しい中、インタビューに応じてくださり誠にありがとうございます。
メアリー・ジョンソン(マリエン・クラッセ役):いえ。こちらとしても宣伝の機会はありがたいですから。
記者:では、お時間も限られていることですのでさっそく――本作「たとえ光が見えなくても」の主演にオファーが来た際はどのようにお感じになられましたか?
メアリー・ジョンソン:正直なところ――私が演じてよいものかと戸惑いました。実話を基にした歴史映画ですし、果たして私がふさわしいのだろうかと。
記者:実際、配役発表の際はインターネットでも批判の声が上がっていました。
メアリー・ジョンソン:ええ。ですが、脚本を読んで気が変わりました。いずれにしても、そこが物語の本質ではないのです。
記者:それは――本作のお披露目とともに明らかになる、そういう理解でよろしいんでしょうか?
 そう、あえて挑発的に語りかけるとメアリーさんは優しく苦笑いした。
メアリー・ジョンソン:そういうことになりますね。彼女の遺した手紙は膨大な数にのぼりますが、その多くがタイプミスやインク不足で近年に至るまで解読が不可能でした。本作の企画化にあたっては、まずそれらのテキストを読み解くために専門の科学スタッフを集めるところからスタートしたのです。つまり、皆さんが知らない新しい事実が本作では描かれています。
記者:なるほど、新たに発見された史実が作品に込められているのですね。そういえば、違法に拘禁した魔法能力行使者を用いて核実験が行われたという事実も、数年前に秘密指定が解かれて判明した出来事でした。
メアリー・ジョンソン:おぞましいことです。彼女たちは意に反して植え付けられた能力のせいで時代の運命に翻弄されてしまったのです。今では世界で最初の被爆者、などと言われていますが、後の世代の私たちはこれを最後にする責務があると言えます。
記者:本当は日本に落とすはずだった核兵器が使われたんでしたよね。
メアリー・ジョンソン:そうです。皮肉にも、彼女たちがなにも知らないままナチス・ドイツのために戦争を引き伸ばしたおかげで――もし、あの核兵器が都市に投下されていたら何十万人もの人命が失われていたでしょう。
記者:考えさせられますね。果たしてなにが正しくて、正しくないのか――映画を観る前からすでにテーマに入り込んでいるかのようです。
メアリー・ジョンソン:昔の話ですが、現代の社会にも通じるテーマだというのは間違いありませんね。――あっ、時間を過ぎてしまったわ。
記者:すいません。あなたが相手だとつい時間の感覚があやふやになってしまって。
メアリー・ジョンソン:まあ、でも、頑張って飛んだらぎりぎり着くと思います。では今日のところはこれで。
記者:重ね重ねありがとうございます。
 そう言うと、メアリーさんはヘリポートからジャンプしてあっという間に空の彼方に消えていった。いよいよ本作で初主演を飾る注目の女優であり、かつ、アメリカ合衆国で唯一の戦略級魔法能力行使者でもある彼女は、国連の指定を受けて今日まさに出撃の時を迎える。
 本誌をご覧の皆さんには『魔法少女』という呼び名の方が馴染みがあるだろう。