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「まあ、やれるだけやってみるけど、作戦行動が最優先だからね」
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「まあ、やれるだけやってみるけど、作戦行動が最優先だからね」
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「それは分かっているよ、どんな場所なのかな」
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「それは分かっているよ、どんな場所なのかな」
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「ソ連に取り上げられたらまずい場所なのは確かでしょうね」
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「ソ連に取り上げられたらまずい場所なのは確かでしょうね」
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二人きりの作戦会議もそこそこにベッドに寝転がると、夢の中に落ちるのは一瞬だった。夢を見ている私は本当になにも見ることができない。
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二人きりの作戦会議もそこそこにベッドに寝転がると、夢の中に落ちるのは一瞬だった。夢を見ている私はなにも見ることができない。
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初めての部下を引き連れての行軍は予想以上に捗らなかった。「セッシュウ」した家にあった干し肉などが新たに詰め込まれた旅行鞄を片手に、無線機まで背負った私たちよりずっと身軽に見える彼らの歩行速度は信じられないほど遅かった。ソ連兵に見つからないようこそこそ歩くという条件を加味してなお、這っているかごとしに感じられる。曲りなりにも将校の私たちにこれまで部隊が与えられなかった理由がはっきりした。誰も同じ速さで歩けないからだ。
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「大尉殿ー、俺はもう休憩したいのでござりますよ」
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あからさまに気の抜けた声で言うパウル一等兵は、またぞろ半日も歩かないうちにお休みをねだってきた。単に速さだけじゃなく、普通の人はあまり長くも歩けないらしい。まだ軽口を叩く余裕のある彼は良い方で、伍長さんも他の兵隊さんも口を開く余裕すらないようだった。ただ、やたらと視線を感じる。休みたいのは彼だけはなかった。
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「……分かった、じゃあお休みしよう」
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数人しかいない分隊内に安堵のため息が漏れる。対して、リザちゃんのいる方からは半ば呆れ気味のため息が聞こえる。各々、地面にへたり込む隊員たちを遠巻きにするとさっそく彼女が不平を言い出した。
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「こんな調子じゃポーゼンまであと何日もかかるわよ。私たちだけだったら今頃ベルリンに帰ってたかも」
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あながち大げさとも言い切れないところが歯がゆい。作戦に協力すると伍長さんと約束したのは自分なのだ。そうでなくても、半壊した分隊を置いてけぼりにしてどこかへ行ってしまうのは冷たすぎると思った。
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「でも、ほら、いつまでにやれ、とは言われていないし」
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精一杯にかばってみせるが、たちまちリザちゃんに切って返される。
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「私たちが見送ったソ連兵が、それまでにベルリンを攻め落としていないといいけどね」
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返す言葉はなにも思いつかなかった。今日はたぶん、手紙の数え方を間違えていなければ十一月の末日。書いては途中で止めてを繰り返した手紙の枚数は経った日にちとぴったり合っている。一日に起こる出来事が少なすぎると書くことがなにも思い浮かばない。ここのところ、かっこよく敵の戦闘機を落としてもいないし、そもそも戦ってすらいない。ひたすら歩いて、飲んで、食べて、歩いて、寝るだけ。そのどれもが微妙につまらなくて、焦りを感じさせた。
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気温が下がり、肌をなでる風に鋭さが帯びる頃、その頬をなにかがかすめていった。なにが、と感じるまでもなく、物静かなハンス一等兵がつぶやく。「雪だ」
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雪が降ってきたらしい。これは手紙に書けそうな気がする、とリザちゃんの足音を追い続けながら頭の中で帳面を開く。たくさんのお手紙を書いて分かったのは、お天気とか季節のお話から始めると書きやすいということだった。
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”一九四六年十一月三〇日。私は現在、特別な任務を遂行すべくポーランドに出兵しています。このお手紙はお父さんのお手元に届く頃にはちょっぴり湿っているかもしれません。というのも、今まさに雪が降っているからです。もちろん、音もなく地に舞い降りる雪の姿は私の目には映りません。肌をなでる冷たい感触が私に雪を感じさせます。小さい頃、地面に積もった雪をすくって食べていたらお父さんに怒られましたね。案の定、あの後にお腹を壊してトイレから出られなくなったのを覚えています。行軍中にそうなったら大変ですが、今では私もお姉さんなのでもうそんなことはしません。”
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どこかで、チーン、とタイプライタの音が鳴ったような気がした。いやしかし、改行を知らせるには遅すぎるし音程も変だ。そもそもこれは頭の中で書いているお手紙であって本当にタイプライタを叩いているわけでは……。
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私はすぐに他にも聞き慣れた音があったのを悟った。これはライフルに弾を込めた後に聞こえる音だ。
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「敵だ」
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先ほどハンス一等兵が「雪だ」と言った時とほぼ変わらない調子でつぶやいた。どよめくも動きの鈍い部下たちにリザちゃんが息を呑みつつもなんとか大声を繰り出す。
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「とっとと伏せなさい!」
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鋭い白線が目の前を瞬時に横切っていった。着弾の音からして真横の木の中に埋まったのだと思われる。続けて、何発もの銃弾が飛来するも、間一髪、彼女の檄が功を奏してそのどれもが人形を模る白線の上を通り過ぎた。
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射撃精度からして流れ弾ではない。敵はこちらの位置を把握している。
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ならば、と私は腰の革製ホルスターからステッキを抜き取り、切り裂いた空気が封で閉じられていくかのように薄れていく白線の軌跡を追い、その始端に向けて魔法を射出した。
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炸裂音の直後に悲鳴がこだまする。森の中にあって敵の姿は見えないが手応えはある。リザちゃんも追撃の魔法を放つ。
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「応射だ、応射しろ」
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奇襲からいちはやく立ち直った伍長さんが部下をけしかけつつ、自分自身も小銃を構えて撃ちはじめた。遅れて、一等兵さんたちもなんとか応射を開始する。
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「空から見ていいかな」
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あらゆる音がないまぜになった空間で無線機越しに尋ねると、ハムノイズ混じりの彼女の声が<ダメ>と端的に告げた。<もし戦闘機に捕捉されたら面倒なことになる>
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「じゃあ私たちが二人で突っ込んで――」
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<それもダメ。ここで被弾のリスクは負いたくない>
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「じゃあ、どうするの」
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<間をとる。ついてきて>
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白線で描かれたリザちゃんの影がふわ、と浮いて止まった。背の高い木の枝に捕まっているようだった。
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<上からも下から見えにくいように木を伝っていく」
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合点を得て、私も影を追う。一瞬、振り返ってもはやなにも映らない暗闇に向かって叫んだ。
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「やっつけてくるね! そこでがんばってて!」
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