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title: "革探しⅣ"
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date: 2024-08-24T20:45:11+09:00
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draft: true
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tags: ['diary']
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一度決めたコンセプトを覆すのは辛いものだ。約1ヶ月前、通勤用に愛用していた布鞄が裂けた。ラップトップが入り、他の必携品がぴったり収納できる上に可愛い、最高の鞄だったのにここへきて最大の弱点が露見してしまった。誓って言うがここに直接なにかを当てたり擦ったりはしていない。上の画像は左端だが右端もほぼ同様の有様だ。
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別に補修はできる。せっかくなら裁ち革を用いた修繕を試そうと思い、すでに革素材を発注している。だがどんな素材を用いようとも状況からみて応力が端に集中している以上、通勤用鞄の重責にはもはや耐えられないのだろう。今後は予備や雨天時など他の身の置きどころを考えてやらなければならない。
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となると、新たに発注する鞄はおのずと革製にならざるをえない。長期的な耐久性において革を凌ぐ素材はそうない。コストパフォーマンスではナイロンに軍配が上がるが、加水分解という避けがたい宿命からは逃れられない。製品サイクルの早さゆえデザイントレンドの影響も受けやすい。一方、革製品はそれ自体がトラディショナルな性質を持つ。きっと月面でも使われているだろう。
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宇宙港から打ち上げられるシャトルで、たまたま席を共にしたマダムから詰問される。「あら、あなたは今どきリアルレザーを持っていらっしゃるの? 勉強不足だわ」「でもルイ・ヴィトンのフェイクレザーだってそう長くは持ちませんよ。これは30年も使っているんです」「まあ! 今からちょうどルナ・シティ支店でお買い物をするところだったのに、ご挨拶ね!」……ところで宇宙空間に晒された本革はどうなるのだろう? さすがにそこまでは知らない。
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しかしA4サイズを越える革鞄は難しい。同じサイズの布鞄と比べて材料に厚みがあるぶん、シルエットに気をつけなくてはいけない。油断すればあっという間に熱帯雨林の探検隊、すなわちインディ・ジョーンズと化してしまう。広い容積を無駄にしまいとあちこちにポケットを付け足した日には確実にハムナプトラだ。
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開閉の簡便性も重要だ。なんであれ通勤用途という題目を達成するには片手でものを出し入れできなければ話にならない。両手は空いている前提とはいえあくまで鞄とリュックを隔てる差異はクイックスロット性にある。ものの取り出しに手間取るなら収納性に優れるリュックに軍配が上がる。
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それで、結局はこういう鞄を選んだ。単純なギボシ留めで他に固定具はなし。前にも中にもポケットはついていない。サイズはA4EサイズでA4よりも若干ゆとりがある。結果的に布鞄よりややシルエットが大きくなってしまったが、装飾が抑えられているおかげでそれほどハリソン・フォードな感じはしない。
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他方、この鞄は背面にチャック付きのポケットが用意されている。僕の考えではチャックは収納の文脈であってリュックには必須でも鞄には相応しくないと見なしていいたのだが、ポケットも増やせず複雑な作りにもできないとくれば多少は流儀を曲げて迎合せざるをえないとの結論に達した。
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幸いにもポケットの容積は期待以上に深く、上記画像の形で必携物を立体的に保存することができた。これならチャック付きポケットにありがちな中身が散乱する問題もなんとかなる。むしろ背面にクイックスロット性とセキュリティ性が両立した収納があると捉えれば相当に好印象だ。
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この革鞄は例によって[Organのショルダーバッグ](https://www.herz-bag.jp/webshop/products/detail810.html)なのだが展示品が店頭になく、かといって他に有力な候補もなかったためカタログ画像頼りでの発注と相成った。発注の時点ですでに理論面の検討を終えていたのでそこまで心配はしていなかったものの、こうして実物がまさしく意図通りの作りだとなお喜ばしい。
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重さはジャスト1kgで僕の布鞄と比べると2倍の重さがあり、誠に遺憾ながら決して軽いとは言えない。それでも本革の鞄では2kg近いものも少なくない傾向を踏まえるとかなりうまくやっている方だと思われる。せいぜい己の美意識のために筋力を維持するほかない。これはある意味で高次のデザイン戦略である。
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持つ者と持たれるものは互いに影響を余儀なくされる。携行品の種類と分量、行き先によっておのずと持つべき鞄が選定されるのであり、逆にまた持つべき鞄を一度定めたのならその鞄に応じて携行品が選定されていく余地も大いにありえる。持ち物を携えて行く先々でなにを為すかが人生だとすれば、鞄によって我々自身が規定されているのだと言うこともできる。
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先んじて使っている革鞄(小)との比較画像。真夏の日差しを共にたっぷり浴びて鍛えられた方と比べると、まだ真の意味で自分のものにはなっていないと感じる。しかし僕が月面に降り立つ頃には、両者ともに僕自身に刻まれた皺と等しい歳月を湛えて小脇に佇んでいるだろう。
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