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Rikuoh Tsujitani 2024-02-23 07:32:31 +09:00
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Signed by: riq0h
GPG key ID: 010F09DEA298C717

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@ -258,7 +258,7 @@ tags: ['novel']
 いくらなんでも死人と握手はしたくないらしい。
「ずいぶん飄々としているな。危うく死ぬところだったのに」
 エドガー少尉は持ち前の白い歯を浮かべてかぶりを振った。カメラに映っていても平気で紙タバコを地面に投げ捨てる豪胆さが台詞に現れる。
「でもやつら、銃を撃つのが下手くそですから。年前の方がずっときつかった。俺みたいな人種のやつにジャッジされたくないだろうが、連中はどうであれ人生をまっとうするつもりで戦っていた。今のやつらは違う」
「でもやつら、銃を撃つのが下手くそですから。年前の方がずっときつかった。俺みたいな人種のやつにジャッジされたくないだろうが、連中はどうであれ人生をまっとうするつもりで戦っていた。今のやつらは違う」
 後ろの方には軽蔑の色も滲んでいた。「別にそんなに嫌うつもりはなかったんじゃないかな」と喉元まででかかった言葉を胃の奥に引っ込める。意図せず感情がこもっていたことに彼自身も気づいたのか、取り繕うように「俺を撮っていてどうするんです。あなたの仕事はあっちでしょう」と死体の山の前に佇む魔法少女を指差した。
 それもそうだ。激戦を終えた英雄にインタビューをしなければならない。
 カメラアングルを意識してじわじわと近づくと、彼女はもう準備ができていた。ゆっくり振り返ると威厳に満ちた顔つきでしめやかに語りだす。
@ -375,7 +375,7 @@ tags: ['novel']
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 年前、一つの超大国が引き裂かれた。あるいは、とっくにばらばらだったのかもしれない。二二四年に実施された大統領選挙において華々しく復活を果たしたドナルド・J・トランプ第四十七代大統領は、さっそく公約通りに連邦議会の権限を大幅に縮小させる大統領令を下した。これにより彼は議会の承認を得ることなく世界最強の大国を動かす力を手に入れたのだった。
 年前、一つの超大国が引き裂かれた。あるいは、とっくにばらばらだったのかもしれない。二二四年に実施された大統領選挙において華々しく復活を果たしたドナルド・J・トランプ第四十七代大統領は、さっそく公約通りに連邦議会の権限を大幅に縮小させる大統領令を下した。これにより彼は議会の承認を得ることなく世界最強の大国を動かす力を手に入れたのだった。
 だが、四年後の二〇二八年。絶大な権力を元に行われるはずの改革や刷新はついぞ行われなかった。もっぱら自身にかけられていた容疑の赦免と莫大な借金の免除、癒着企業の救済などに傾注していた彼は、選挙シーズンが来て初めて大統領選挙を廃止していなかったことに気がついた。
 まだ数字をいじりたい帳簿が山ほどあったのか、彼は「内敵より国家を守る決断」と称して事実上の独裁を宣言した。直後、生まれたての永世大統領自称はホワイトハウスから即刻追い出されてしまう。ワシントンD.C.を挟むバージニア州およびメリーランド州政府が即座に離反を宣言したため、じきに左右から押し迫るであろう州兵を前に居残る決断はできなかったようだ。
 実権を取り戻した連邦議会は直ちに満場一致で大統領の罷免を可決、新たな大統領が選出されてワシントンD.C.に首都を置く従来のアメリカ合衆国は原状復帰したかに思われた。ところが、トランプ元大統領はいち早く新体制支持を表明していたテキサス州へと向かい、そこで新たな国家の樹立を主張したのだった。
@ -410,7 +410,7 @@ tags: ['novel']
「縛りつけているのは土地なのか、それとも偏見なのか……」
「そうは言っても骨丸出しのやつが隣に引っ越してきたら嫌ですよ、俺は」
 運転手の兵士は笑いもせず答えた。この彼の思考はシンプルにできているようだった。
 ついにダラス郡内に侵入した。記憶に残る街並みはそこにはみじんも残されていない。徹底的な空爆に晒された首都はみるも無残な姿に変わり果てている。代わりに年前に大統領が作らせた尖塔――「トランプ・タワー2」――驚くべきことに正式名称――が都市の中央にそびえ立つ。降伏を決定できる立場の人間を殺すと戦争が終わらないので、計画的に空爆対象から外されていたのだ。
 ついにダラス郡内に侵入した。記憶に残る街並みはそこにはみじんも残されていない。徹底的な空爆に晒された首都はみるも無残な姿に変わり果てている。代わりに年前に大統領が作らせた尖塔――「トランプ・タワー2」――驚くべきことに正式名称――が都市の中央にそびえ立つ。降伏を決定できる立場の人間を殺すと戦争が終わらないので、計画的に空爆対象から外されていたのだ。
「行く場所がはっきりしていて楽だな」
 とことん皮肉めいた風景に嫌味を漏らさずにはいられなかった。
 侵入を封じる粗末な作りのバリケードを車体で蹴散らして尖塔の敷地内に侵入した。尖塔の上層からの狙撃を警戒して、各戦闘車輌は建物の影にそれぞれ横付けで停車した。出る時は車輌を壁に、脇見せず突入する手はずになっている。