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@ -364,7 +364,7 @@ tags: ['novel']
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差し迫った彼女の態度に不安を覚えて尋ねると、深い吐息をにじませた言葉がかえってきた。
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「私たち、引っ越すことになったわ。休みながら飛ばないと着けないから、もっと上着を持っていかないと」
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「どこに引っ越すの」
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「ポーランドよ」
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「ずっと東。ベルリンよりも東……ポーランドよ」
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@ -405,8 +405,19 @@ tags: ['novel']
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決定的な一言だった。私はまだベルギーチョコレートを食べていない。あの後、幾度となく管制官にお伺いを立てる機会はあったものの、全機撃墜を果たせなかった負い目から言えずじまいだった。それでもお給料はしっかり毎月頂いている。私が自分で行けば、ベルギーチョコレートも買えるし、お父さんにも会える。
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「ちょっとだけなら」
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もじもじしながらうなずく私に、彼女は言う。
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「旅行鞄の隅っこを空けておかないとね。チョコレート、たくさん買うでしょ」
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「旅行鞄の隅っこを空けておかないとね。チョコレート、たくさん買いたいでしょ」
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私はまたこくりとうなずいて、それから遠出の準備に取り掛かった。
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自分の身体がまるまる折りたたんで入りそうな大きさの旅行鞄に、持っているお洋服をどんどん詰め込んでいく。干し肉とか、炒ったスイートコーンとか、豆の缶詰も入れる。ピクニックの時期からはだいぶ離れているのに、こうして荷造りをしていると小さい頃を思い出す。初めから終わりまでお父さんに手を引かれていたのに途中で疲れてしまって、帰り道はおんぶをねだったのだった。
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外套の下にも重ね着をして厚手の手袋をはめた。そして最後の最後に、旅行鞄の一番上に、私たちの勝負服であり、軍服であり、戦闘服でもあるオーバードレスを飾るように畳み入れる。どんな時でも作戦行動中は軍規に則らなければならない。
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でも今は、規則を破って裏庭から空を飛ぼうとする、もこもこしたただの魔法少女だ。
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「滑走路じゃないところで飛ぶのって久しぶり」
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薄曇りの空を仰ぎ見てつぶやく。晴れていないのは好都合。今回は友軍の機体にも見つけてほしくない。
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足裏に力を込めると、地面に縛りつけられていた身体がふわりと浮いた。
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