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title: "イーロン・マスクの尻舐めをやめられない"
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date: 2023-09-10T23:36:38+09:00
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draft: false
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tags: ['essay','politcs']
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あからさまに炎上狙いの投稿がまんまと拡散せしめられている時、むしろ対立者の手によって行われている場合が多いように思う。よくもまあそんな日陰の冷えた石の裏みたいな投稿を見つけ出してきたものだなと感心せざるをえない。えてしてアカウント作成日が数ヶ月以内で、FFは数十人程度、投稿も数百程度だったりする。ひょっとしてわざわざ探し回っているのだろうか。
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ここ半年の間にアクティビスト然とした人たちがぼつぼつとFediverseに現れた。最初は滔々と天下国家を語ったり、社会に潜む偏見について仔細に書き綴っていたりするのだが、大抵あまり長くは持たない。Fediverseでの彼ら彼女らは明らかに精彩を欠いている。なんせ怒りのヴォルテージを加速させる憎い敵も、自身の投稿に称賛を寄せる頼もしい味方も、Xにしかいないのだから。あそこではせっせと土をほじくり返して拾ったキモい虫を見せびらかすだけで、みんなぎゃーぎゃーと騒いでくれる。
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Xの現状はひどい。表現の自由を尊重すると言いながら止まらない理不尽な凍結、なぜか勢いを増したスパムたち。インフルエンサーに金が直接振り込まれるマジで最悪の仕組みが導入されて以来、富に目がくらんだユーザの投稿はより扇情的に毒々しくきらめき、タイムラインを流れる広告枠はついに政治団体にまで与えられはじめた。
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なんでもXはスーパーアプリとやらになるという。決済機能や通話機能をどんどん盛り込んでいって、最終的にマイクロブロギングは数ある機能の一つとしてその中に押し込められる。もちろん僕たちは不平不満をしきりに投げつけるのだけれど、まずもって方針が変わることはありえない。誰も彼もXに投稿しまくって丹念にイーロン・マスクの尻を舐めているからな。
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個人の認識と実態が乖離している事例はそう珍しくない。ただ、手に馴染んだサービスを使い続けているだけ――しかし、もはやXは公開企業ではなくイーロン・マスクの持ち物である。ユーザの意見が反映される兆しはなく、状況は悪化する一方だ。すっかり解りきっている。なのに、Xをやめていない。僕たちはみんな、自分の意志でもってイーロン・マスクの尻を鷲掴みにして舐めている。
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今、イーロン・マスクが尻を突き出している。それをフォロー・フォロワーが一列に這いつくばって、投稿するたびにやつの尻を舐め回す。互いにXの文句を言ったり、独り言を言ったり、雑談を交わしたりして苦楽を分かち合いながら舐めていると、思いのほか屈辱ではないような気がしてくる。みんなも一緒に尻を舐めているんだし別にいいか、みたいな。
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実際にはやつは遠慮なしにびちびちと糞を漏らしていて今後も一生漏らしまくりなんだけども、順繰りに丁寧に舐め回しているものだからやつの肛門はいつもピカピカで、自分が糞を漏らしている事実にも気づいていない。いや、気づいている可能性はある。でも気にしてはいない。「だって君らが舐めてくれるんだろ? じゃあいいじゃん。今日も舐めてくれるでしょ?」ってなもんだ。
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僕たちはそうやって突き出された尻をフォロワーと並んで日々舐めている。もしかしたら君は「仲の良い人が……」みたいなことを言うかもしれないが、多数派だからイーロン・マスクの尻を皺の溝まで舐めていても抵抗を感じないんだ。そりゃ一人だったら趣味でもなければやらないだろ。二人でもやらないだろうね。全体の一割か、二割でも見捨てるだろう。要するに一人ひとりのフォロワーが大切なんじゃなくて、総体としての人間関係の中で自分の存在感を失いたくないだけに過ぎない。
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あるいは「仕事だから」とのたまう輩もいる。だがこんなのは言い訳にならないどころか、かえってたちが悪い。商売に繋げられるほど有力なアカウントならフォロワーも相当多いに違いない。つまり、君自身がXの人気コンテンツであり、固有の資産でもある。さながらイーロン・マスクの尻を舐めているフォロワーの横で、景気よさげに尻舐め音頭を踊っている囃し立て役だ。なんか被害者ぶっているけど全然普通に体制側でしかない。
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僕たちがしたり顔で政治とか社会についてXで語っている時、陰謀論者でアホ右翼のイーロン・マスクの尻を舐めている。僕たちがすまし顔で技術とか科学についてXで語っている時、しょうもない不具合を頻発させているイーロン・マスクの尻を左右に拡げて舐めている。
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僕はみんながスーパーアプリ化に際して身分証明書の提出や支払いを要求されたらさすがにやめるんじゃないかと少し前までは思っていたんだけど、今ではまったくそんな気がしないな。相変わらず横一列で尻を舐めているフォロワーを見て「えっ、これって舐め続けていいやつなのか?」とうろたえつつも、やっぱりなんでもかんでも差し出してしまうんだろう。そして、君より奥に並んでいるフォロワーも延々と後に続く。
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「そうなったらやめる」なんて言える事態はもう何度も起きているよ。昨年の頭に「名前を変えたら凍結される」とか「一定の上限を越えると投稿が読めない」なんて聞いたら君らは「そうなったらやめる」って言っていたんじゃないかな。だから、フォロワーの中でもいっとう賢くて口のうまいのが「逆に、提出する」とかなんとかやっている様子に流されて、君はきっと身分証明書を提出するよ。金だって余裕で払うさ。
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なまじ4桁フォロワー以上いる人たちは「逆に、金を払わせる」とかなんとか言って投げ銭を要求して、月額料金ぶんくらい誰かからお布施してもらえるかもしれないな。それで自分の意外な影響力に気づかされて、ますますイーロン・マスクの尻舐めをやめられなくなっていく。そのうち、尻舐め音頭を踊る役が間近に見えてくる。
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それでも現実にXが使いづらくなっていっているのは確かだ。僕たちがフォロワーを理由にしてイーロン・マスクの尻をピカピカに仕上げている間にも、身のこなしが軽い人たちはさっさとやつの尻を蹴飛ばして出ていく。既存の人間関係にこだわらなければ行く場所はいくつもある。いつまでも不自由な場所に留まって人々とつるんでいればいるほど、永久に尻舐めを脱することはできない。
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とはいえまあ、やめられないよな。尻の舐め方がうまいと気心の知れたフォロワーからいいねを送ってもらえるし、たまに”リポスト”してもらって別の列にまで小粋な尻舐め芸を拡散してもらえるし。それはXで培ってきた人間関係があってこそ得られる最上の娯楽ゆえ、ここでは尻を舐めるなんて下品な真似をする必要はありません、などと言われても、がらんどうの部屋でなにをしていいのか分からず結局はイーロン・マスクの尻舐め特設会場に戻ってしまう。
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かくいう僕もソロインスタンスを建ててからはブログの更新告知しかXに投稿していないが、せいぜい五十回舐めているか百回舐めているかの違いしかない。なにしろそうしてから丸二ヶ月も経ったのにフォロワーは減るどころか逆に増えている。X上のコンテンツとしてそこそこ機能してしまっている。僕も尻を舐めているし、舐めさせている。同じ穴の狢だ。
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しかし程度問題を考えるとさすがに皮肉の一つや二つは言いたくなる。自分の半径五メートル以外のことは興味ありませんっていうような典型的ノンポリならともかく、いかにも社会や政治に一家言ありそうな人々がこぞって日に何百回もやつの肛門を舌先で器用にほじくっている有様はいくらなんでも嘘でしかない。じゃあ、あんなに熱っぽく語っていた反体制とか自由って一体なんだったんだよ。
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