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「ブリュッセルが占領されたことなんて私たちは知らない」
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「あ、そうだった」
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お手紙を書くのにも我が国にはルールがあるのだと管制官によく教えられた。みんながルールを守っているか確かめるために、お巡りさんみたいな人たちが代わりにお手紙を読んでくれるのだという。そこでルールを守っていないと判ると「ケンエツ」されてしまう。お話を書き慣れていなかった頃はよく「ケンエツ」されて、管制官と会うたびに窘められた。私が国家魔法少女になったことは、もちろんお父さんも知っているので書けるけれど、作戦に関わることは書いちゃいけない。ブリュッセルの話もたぶんそうだ。ルールは守らないといけない。
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「じゃあ、そこは削って……」
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「じゃあ、今のは削って……」
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次の段落を考えるのには苦労した。ポーランドに行っていることは書けない。つまり、今の私たちの生活も書けない。一旦、ベルリンで休憩してからポーランドに飛んだ私たちは大して進まないうちに地上に降りざるをえなくなった。イギリスの戦闘機がうるさい蚊なら、ソ連の戦闘機は濃硫酸の大雨に等しかった。ひと粒の雨を振り払うたびに身体が焼け焦げ、秒を追うごとに他の雨粒が全身を貫かんとして降り注いでくる。ソ連兵が攻めてきているという話は本当だった。
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そこで私たちは経路を大幅に迂回して北からポーゼンに向かう作戦を採った。それでもソ連兵はわらわらとどこからでも姿を現して、一向に尽きる気配がない。まるで地面から無尽蔵に生えてきているかのように感じられた。
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本当なら往復で三日程度と考えていた作戦に、もう一週間以上も費やしている。直線距離なら一日とかからない道のりも、迂回路を探りながら地上を歩くやり方では遅々として進まない。旅行鞄のけっこうな割合を占めていた食糧はほとんど尽きかけだった。
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私がなにも続きを話さないので、リザちゃんの持つ鉛筆の先がとんとん、と音を鳴らした。
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「あ、ごめん。やっぱり今日はいいや。なにを書けばいいのか思いつかない」
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「そう、でももう書き直しは勘弁よ」
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