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title: "キーボードのことだけ考えて眠る"
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date: 2023-12-23T19:05:31+09:00
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tags: ['diary']
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物書きはキーボードにこだわる。文章を打つからだ。プログラマはキーボードにこだわる。コードを打つからだ。ゲーマもやはりキーボードにこだわる。敵を打つからだ。それらすべてに当てはまる僕も、もちろんキーボードにはそこそここだわってきた。
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その昔、そう多いとは言えない稼ぎを元手にえいやと買ったLeopold FC660Cをずいぶん長く使ってきて、個人的にはこれこそが最高のキーボードだと思っていた。すなわち、矢印キーが付いた静電容量無接点キーボードこそが書き物によし、ゲームにもよしで攻守最強に違いない、との理屈である。
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当時のキーボードの序列ははんだ付けを考慮しなければ極めてシンプルだった。最下位にメンブレンがあって、中間にメカニカル、最上位には永久の覇者たるHHKBとRealforce。今はメカニカルに甘んじている者もいずれはHHKBかRealforceを目指す。そういう世界観が築かれていた。すごいプログラマはだいたいHHKB、すごいプロゲーマはだいたいRealforceを使っている。シンプルで判りやすい価値基準だ。
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僕が使っていたLeopold FC660Cはどちらの商品でもないが、中身は東プレ基盤で打ち心地はHHKBとほぼ変わらない。しかし余計なキーが多すぎるRealforceと、逆に矢印キーが足りないHHKBの隙間を埋める存在として密かに知られていた。なにしろこの配列は今でこそ「65%キーボード」との通称で知られているものの、僕の知る限り当時はこの製品にしかなかったレイアウトだ。
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当時のメカニカルでは満足できず、HHKBにもRealforceにも迎合できなかった僕にとってFC660CはまごうことなきEndgameキーボードであり続けた。今後もそうだろうと思っていた。今日のメカニカルキーボードが飛躍的な進歩を遂げていると知るまでは……。
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## ホットスワップ、アルミニウム筐体、ガスケット構造
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僕の知るメカニカルキーボードとは黒赤茶青の軸がそれぞれ存在していて、欲しい軸ごとにキーボードを買わなければならない代物だった。商品展開ははおおむねFLICOのMajestouch中心で、他にRazerやSteelSeriasなどのゲーミングデバイスメーカーが出している印象が強い。宣伝文句は立派でも数年使うとチャタリングを起こして買い替えになる。音はなんかカチャカチャと鳴る。そんな感じ。
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だが今のメカニカルキーボードは違った。ホットスワップなる完全に未知のテクノロジーによってスイッチを取り替えることができる。無限に等しい寿命を持つ静電容量無接点方式に対して、交換可能性という武器を得て公然と逆襲を開始せしめたのだ。しかも交換するスイッチは違う種類でも構わない。いつでも気分次第で違った打ち心地を楽しめる。
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実際のところは判らないが、この簡便なホットスワップ機構はキーボード関係業界の分業制、ないしは専門性をより高めたと考えられる。中核部品が容易に交換可能であれば、基盤は基盤、スイッチはスイッチ、キーキャップはキーキャップと独立した研究開発が行える。それぞれの製品を別々に売り出しても顧客が勝手に組み合わせてくれる。
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以前にもカスタムキーボードの概念はもちろん存在していて、その先駆者たちが長さ3メートルのはんだごてを駆使して万里の長城の端と端を繋ぎ合わせていたのは言うまでもない歴史的事実だが、その他大勢にとって工具要らずの組立作業は明らかに安全でハードルが低く、他ならぬ僕もその一人であった。
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そうして顧客の需要を掴み取った業界がより工夫を凝らした新製品を次々と投入できるのは毛沢東も認めざるをえない競争原理に他ならず、天安門広場から割とけっこう離れた深センの工場では数多くのキーボードメーカーの工場が日夜ありとあらゆる種類の部品を作り続けているのである。
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そのうちの一台――Keychron Q2 Proという――が、先々週、家に届いた。削り出しアルミニウムのリッチでエレガントな筐体、有線・無線両対応にして豊富なイルミネーションを備えたバックライト機能、打ち心地を高めるべく筐体内に実装されたダブル・ガスケット構造、潤滑液が予め塗られた高品質なメカニカルスイッチ……。
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そのなめらかな感触はまるでシルクを奏でているようでもあり、そうして放たれた高貴な打鍵音はさながら糖衣をまとっているようであった。これと比べたら10年前に作られた静電容量無接点方式などはまるで石を穿っているようである。こうしてはいられない、すぐさま2台目を作らなければ、と直感するのにそう時間はかからなかった。キーボードを打つ場所は自宅だけに限らない。
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してみると、どうやら僕が見ていたカスタムキーボードの世界は万里の長城の一里分にも満たないようだった。なにしろ僕が初手で組んだキーボードは基盤がKeychron、スイッチもKeychron、キーキャップもKeychronで、つまるところヨドバシでも手に入る超有名企業の鉄板構成を踏襲したに過ぎなかった。外側にはもっと広い世界が広がっていたのだ。
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## KBDfan、Kprepblic、Domikey、プレート、PCB
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カスタムキーボード愛好家の需要に応えるWebサイトは無数に存在していた。ありとあらゆるWebサイトではありとあらゆるキーキャップが売られており、Webサイトが独自で企画した自作キットも作られ、どれもが割と早いうちに売り切れて終売していく。当然、時機を逃せば二度と手に入らないものも珍しくはない。
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ホットスワップ機構のおかげで飛躍的に楽になったとはいえ、曲がりなりにも顧客が組み立てられなければならない商品の部品が平気で100ドル、200ドルの桁を刻んで並べられている。やれPBTだダブルショットだと言っても所詮は樹脂の塊に過ぎないキーキャップが、それ単体で150ドルする。
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とんでもない世界に足を踏み入れたものだ、と萎えかけた意欲も優れたデザイン性を持った商品群を見ていくうちにだんだん感覚が鈍麻してきて、確かに100ドルくらいはするかもしれん、むしろ良い仕事をしているのでは、などとうっかり順応しそうになってくる。基盤、と一口に言ってもプレートやらPCBやら、とにかく選べる選択肢の幅が広い。
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title: "キーボードのことだけ考えて眠る"
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date: 2023-12-24T11:34:31+09:00
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tags: ['diary']
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>*今年もやって参りました。本稿は一般社団法人異常文章排出機構のアドベントカレンダー2023、24日目の記事です。*
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物書きはキーボードにこだわる。文章を打つからだ。プログラマはキーボードにこだわる。コードを打つからだ。ゲーマもやはりキーボードにこだわる。敵を打つからだ。それらすべてに当てはまる僕も、もちろんキーボードにはそこそここだわっている。
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その昔、そう多いとは言えない稼ぎを元手にえいやと買った[Leopold FC660C](https://archisite.co.jp/products/leopold/fc660c-mij/)をずっと愛用してきて、僕はこれぞ最高のキーボードだと確信していた。すなわち、矢印キーが付いた静電容量無接点キーボードこそが業務によし、ゲームによしで攻守最強に違いない、との理屈である。
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当時のキーボードの序列は極めてシンプルだった。まずスタートラインにメンブレンがあり、中間にメカニカル、そして、最上位には絶対王者たるHHKBとRealforceが君臨している。キーボードに入れ込みはじめた者はいずれ必ずHHKBかRealforceを目指す。そういう世界観が築かれていた。すごいプログラマはだいたいHHKB、すごいプロゲーマはだいたいRealforceを使う。シンプルで判りやすい価値基準だ。
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Leopold FC660Cはどちらでもないが、中身は東プレ基盤で打ち心地はHHKBとほとんど変わらない。それゆえ余計なキーが多すぎるRealforceと、逆に矢印キーが足りないHHKBの隙間を埋めうる稀有な存在として密かに知られていた。なにしろこの配列は今でこそ「65%キーボード」の通称で知られているものの、僕の知る限り当時はこの製品にしか備わっていなかったのだ。
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店売りのメカニカルキーボードでは満足できず、HHKBにもRealforceにも適応できなかった僕にとってFC660Cはまごうことなきマスターピースであり続けた。今後もそうだろうと信じていた。今日のキーボード業界が飛躍的な進歩を遂げていると知るまでは……。
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## ホットスワップ、アルミニウム筐体、ガスケット構造、VIA
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僕の知るメカニカルキーボードとは黒赤茶青の機械式スイッチ(軸)が各々存在していて、欲しい軸ごとにキーボードを買わなければならない代物だった。商品展開ははおおむねFILCOのMajestouchシリーズが中心で、他にRazerやSteelSeriesなどのゲーミングデバイスメーカーがぼちぼち作っていた印象が強い。宣伝文句は立派でも数年使うとチャタリングを起こして買い替えになる。音はカチャカチャと鳴ったり鳴らなかったりする。
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だが、今のメカニカルキーボードは違う。ホットスワップ機構なる完全に未知のテクノロジーによってスイッチを簡単に取り替えることができる。圧倒的な高寿命を誇る静電容量無接点方式に対して、交換可能性という新たな武器を得て公然と逆襲を開始せしめたのだ。しかも、交換するスイッチは異なる種類でも構わない。打ち心地の可変性さえ提供している。
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実際のところは分からないが、このホットスワップ機構はキーボード業界の分業制、ないしは専門性をより高めたのではないか、と勝手に想像している。中核部品が容易に交換可能であれば、基盤は基盤、スイッチはスイッチ、キーキャップはキーキャップと、独立した研究開発が行える。それぞれの製品を別々に売り出しても顧客自ら組み合わせてくれるからだ。スイッチ専業、キーキャップ専業という経営スタイルも十分に可能だろう。
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太古の昔にもカスタムキーボードの概念はもちろん存在していて、偉大なる先駆者たちが長さ10メートルのはんだごてを駆使して万里の長城の端と端を繋ぎ合わせていたのは語るまでもない歴史的事実だが、大半の顧客にとって工具要らずの組み立て作業は目に見えて安全でハードルが低く、他ならぬ僕もその一人であった。
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そうして潜在需要の鉱脈を掘り当てた業界がより高度な新製品を次々と投入していくのは毛沢東も認めざるをえない市場原理に他ならず、五星紅旗がはためく天安門広場から全然普通にめちゃくちゃ離れた深センの工場では星の数ほどあるキーボード関連メーカーが日夜ありとあらゆる種類の部品を作り続けているのである。
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そのうちの一台――[Keychron Q2 Pro](https://www.keychron.com/products/keychron-q2-pro-qmk-via-wireless-custom-mechanical-keyboard)――が、先々週、家に届いた。削り出しアルミニウムのリッチでエレガントな筐体、有線・無線両対応にして豊富なイルミネーションLEDを備えた基盤、打ち心地を高めるべく筐体内に実装されたガスケット構造、潤滑液が予め塗られた高品質なメカニカルスイッチ、自在にキーマップが変えられるファームウェア……。
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そのなめらかな感触、音質ときたらまるでシルクを奏でているようだった。これと比べたら10年前に作られた静電容量無接点方式などはさしずめ石くれだ。急速な価値観の変化――玉座であぐらをかいている間に、中央広場では革命が起こっていた。こうしてはいられない。ただちに2台目を組まなければ、と決心するのにさほど躊躇はしなかった。キーボードを打つ場所は自宅ばかりに限らない。
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いざ改めて調べてみると、どうやら僕が見ていたカスタムキーボードの世界は万里の長城の一里分にも満たないようだった。なぜなら、僕が初手で組んだキーボードは筐体基盤がKeychron、スイッチもKeychron、キーキャップもKeychronで、とどのつまりヨドバシでも扱われている有名企業の鉄板構成を踏襲したに過ぎない。城の外側にはもっと広い世界が広がっていた。
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## KBDfan、Kprepblic、プレート、PCB
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カスタムキーボード愛好家の需要に応えるWebサイトは大量に存在している。無数のWebサイトで無数のキーキャップが売られており、Webサイトの運営元が独自企画した筐体基盤も作られ、どれもが割と早いうちに売り切れて終売していく。小規模な業者ゆえ彼らは在庫を多く持たない。時機を逃せばどんなにすばらしい傑作とて二度と手に入らない。
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その上、量産効果が効かない部品は高い。ホットスワップ機構のおかげで飛躍的に楽になったとはいえ、曲がりなりにも顧客自身が組み立てなければならない製品の一部品が平気で100ドル、200ドルの桁を刻んで並べられている。所詮は樹脂の塊に過ぎないキーキャップが、それ単体で150ドル以上もしたりする。
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恐ろしい世界に足を踏み入れたものだ、と気圧されかけた意欲もエッジの尖った新進気鋭の製品を見ていくうちに順応してきて、むしろ良い仕事をしているのでは、とうっかり納得しそうになる。一口に基盤、と言っても材質や実装手法、カラーバリエーションを含めたら尋常ではない品数だ。
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そんな製品群が巷に満ちあふれているものだから、良さそうな条件をすり合わせるだけでも相当な苦労を要する。そもそもなにが「良さそう」なのかさえ情報過多すぎて判断がつかない。だが、なんとしてもこの業界の突端に触れたい。日々、勉強して理解に努める。冷静に考えるとおかしい話だ。僕はすでに立派なキーボードを手に入れて、すっかり満足しているんじゃなかったのか。
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## 65%、60%、WK、WKL
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もっとも慎重に考えるべきはキーボードのレイアウトである。一度それに馴染んだら離脱は容易ではない。かといって、日和って余分なキーを含むレイアウトに妥協してしまえば、使い続けるかぎり自ら付け加えた余分な贅肉をまざまざと見せつけられる人生が続く。ことあるたび、僕が自身に問うのは矢印キーの必要性だ。
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僕はもっぱらキーボードをVimに向かって叩いている。Vimの操作に矢印キーは必要ない。であれば、これは容易に省けそうに思える。しかし、所変われば否が応にでも矢印キーの恩恵を感じずにはいられない。たとえば、hjklのキーマップが通じないブラウザ上の入力フィールドでは使わざるをえないし、Vim上でさえ文節の変換時にフォーカスがIMEに移動すると急に使わざるをえなくなる。
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その使用頻度ははっきり言って数字キーよりも格段に高い。矢印キーを省いた60%キーボードからさらに数字キーを省いた40%キーボードレイアウトなる代物が世の中には存在しているが、もしそれに矢印キーさえ備わっていたらそっちの方がまだ適応可能に思える。せっかくキーマップを自在に変更できるのであえて矢印キーを入れ替えて丸一日生活してみたところ、一時間も経たないうちに文章を書くのが嫌になってしまった。
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たかが新しいキーコンビネーションに慣れるだけと言っても、Fn+hjklは北京から深センくらい遠い。右Fn+:<>?でもまだせいぜい上海くらいだ。日々、何百回と打ち込むキーの入力がこんなに面倒でいいはずがない。ファンクションキーを入力するのとはわけが違う。旅行と通勤ぐらい違う。
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ラップトップマシンでの立ち回りも問題だ。たとえコンビネーション前提の入力に慣れても、そこでは逆に矢印キーが余ってしまう。一周回って非効率極まりない、だったら、最初から矢印キーを有効活用する方針で暮らした方が収まりが良さそうじゃないか? ……とはいえ、明確な答えは出せない。どちらを選ぶにしてもまだ選択肢は多い。
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## 筐体、SAプロファイル、PBT、ABS、スイッチ
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見てくれも吟味しなくてはならない。昨日、僕は秋葉原の遊舎工房に出頭して舐めるように各部品の外見を凝視した。あえて言うと、今使っているKeychron Q2 Proはシルバーグレーの筐体のシルバー感が強すぎる色合いが少々気に入らない。次はもっとマットな質感のもので組みたい。
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そこへいくと、僕が有力視している筐体基盤の一つ「Tofu」はうまく仕上がっている。配列も申し分ない。65%も60%もある。**が、高い。** 単体で3万円もする。なんでも複数種類のマウント方式に対応していて云々……筐体の仕上げは静電塗装または陽極酸化処理で云々……ウーン、別に……そんなに豪華じゃなくてもいいかな……。
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帰宅後、情報を精査すると[Bakeneko65](https://cannonkeys.com/products/bakeneko65)などのより安価な筐体基盤を見つけた。Tofuシリーズより40ドル近くも安い。代わりに筐体は単純なスプレー塗装でいつか剥げるかもしれない。バックライト機能もない。加えて、内部実装はオープンソースの設計書に基づいて開発されている。しかし、打ち心地の評判は良い。
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いや……逆に……ありじゃないか? つまり、**オープンソースハードウェア**ってことだ。露骨なコストカットの形跡も考えようによっては実を取っている。どうせ使わないバックライトが省かれているのも良い。それでいて一応、Oリングと呼ばれる硬質なゴムを利用したガスケット構造が採用されている。本質では妥協していない。ふむ。少なくとも筐体基盤は早期に決められそうだ。
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となると、次はキーキャップを考えなければならない。現状はDomikeyの[DOLCH-SA](https://domikey.com/collections/sa-series/products/dolch-sa-profile)を検討している。毎日、キーキャップを扱うWebサイトを凝視し続けて選び抜いた。SAプロファイルは背が高いキーキャップの規格だが、遊舎工房での試し打ちを経てだいぶ慣れたので問題はないだろう。同様に、キーキャップの幅いっぱいにアルファベットが印字されているデザインは直で見るとさらに好ましい印象を抱いた。
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唯一の懸念点は件のキーキャップがPBTと比べて若干質感の劣るABSで形成されているところで、こればかりは実際に買って確かめていないと判りそうもない。どうもPBTで背の高いキーキャップを作るには加工が難しいらしい。そのものずばりの商品が店頭にあれば話は早かったがさすがにそこまでうまい話はなかった。
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肝心要のスイッチについては一旦思考停止することにした。今使っているKeychronの黄色軸と、任意の安価なタクタイル軸で構わない。どのみち今の段階で最適なスイッチを選び出せるとは思えない。せっかくのホットスワップ機構なのだから他の条件を整えてから深堀りしても遅くはないはずだ。
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このようにして、永遠の道程にも等しい困難な構想が徐々にまとまりつつある。無数の端と端を繋ぎ合わせて、いつか僕の目の前に理想のカスタムキーボードが誕生する日が来るのだろう。そう、あたかも万里の長城のように。中国本土が旧正月に入るまでにはなんとか発注を済ませたい。
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## おわりに
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ここ一週間、キーボードのことだけ考えて眠っている。ひとたび火が付いてしまったからには自然鎮火を待つしかない。さしあたり別々のスイッチで一台ずつ組む予定だが、それで落ち着く保証はない。次から次へと文字通りの新機軸が到来して、矢継ぎ早にすべてが新しく変わっていくからだ。
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かつて持ち得た資金をすべて投じたピュアオーディオでさえ、こんなに鋭敏な加速感は得られなかった。沼に沈んでいる……というよりは終わりのない斜面を走っているようだ。決して何者にも追われていないし、追っているわけでもないのに、自分でも知らないなにかを目指して走り続けている。
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