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title: "論評「THE CREATOR」:王道と向き合う勇気"
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date: 2024-01-14T19:28:00+09:00
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draft: true
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tags: ['movie']
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## はじめに
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新年早々とんでもない映画を観てしまったという気持ちだ。映画自体が公開されたのは昨年だが、様々な事情の末に僕が本作を視聴したのはDisney+での配給が開始されてからだった。というのも、この映画のあらすじにはどうにもぬぐいがたい不信感が潜んでいたせいだ。あえてもったいぶるまでもなく説明すると、本作は高度に発達した機械と人間が対立を余儀なくされる話である。
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うわあ、なんて斬新な設定なんだろう! 今すぐ映画館に駆け込んで、どんな物語なのか観なくちゃ! ……と、なるような人はたとえ映画にまったく興味がなくても今時いないだろう。誰でもすぐにターミネーターやマトリックスのあらすじを脳裏に思い描くことができる。もう少し詳しい向きなら、ブレードランナーやアシモフ作品を連想するだろう。
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ざっくり被創造物による逆襲――にまで尺度を広げるのならフランケンシュタインやゴーレム、各地のありとあらゆる神話や寓話までをも射程範囲に収まり、どうあがいてもこのテーマが有史以来、散々こすり倒されて擦り切れている事実を悟らざるをえない。そういった万にものぼる記憶されし歴史的名作の裏には、ジャンルのファンが支える小粒な同人誌的フッテージが無数に存在し、現在でもそれは尽きることがない。
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つまり、このテーマで描かれるべきものは十分に描かれており、今も残っているのは「でもこれが好きだから」という、食べ慣れた味を再現なく求めるような習慣性から来るものでしかないのが現実だ。まがりなりにもスターウォーズの監督を任されたほどの大人物がそんなもののために新規企画を立ち上げ、各方面の関係者から制作資金を引き出させたのはいかにも奇妙に映る。
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実際、Youtubeで観たトレイラー動画は資金がかかっているだけあって立派な画作りに見えたが想定を上回るような筋書きには見えなかったし、核爆発で荒廃した都市、ゴシック体の下手な日本語が並ぶ摩天楼、数々のデカ兵器、といかにもなパターン化されたエモで満ちあふれていた。僕が本作を映画館で観るほどの作品ではないと見なしても誰も責めはしないに違いない。唯一責めるのは、観た後の僕だけだ。
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## 妥当な言い訳
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日曜日の堕落した昼下がり、Disney+の灯りをともした僕の目に留まった本作はあらゆる意味で「ちょうどいい」作品に見えた。そういえばこんなのあったな、きっと金だけはやたらかかったリッチなCGで僕を楽しませてくれるんだろう。それ以上の期待は一切持たなかった。堕落した休日にふさわしいのはまさに食べ慣れた味であり、できれば味付けは濃い方がよく、食べるのに手間がかかるべきではない。
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冒頭では本作がそこまで遠くはない2060年代の未来を舞台としている割に、人間そっくりの見た目をした高度なロボットが存在できている理由をほのめかす各種ニュース映像が流れる。本作の世界では映像がモノクロの時点ですでにロボット工学が発達しており、カラー映像に切り替わる頃にはもう二足歩行のロボットが人間の代わりに労役を担っている。
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大胆なアプローチながら、なるほどうまい言い訳を考えたものだな……とこれには率直に感心を覚えた。なにしろまともな考証を練れば練るほど人間とそっくりなロボットを登場させていい時代は後ろにずれていかざるをえない。人間の思考部分――ソフトウェアの方面はもう少し早くなんとかなるかもしれないが、人間同様に自在に動く関節やアーム、高効率のバッテリーといったハードウェア部分を勘定に入れると、僕だったら最低でも100年は後回しにしたい。
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ところが、100年、200年とずらしていくと当然、ロボット工学以外の科学技術も並行的に進歩しているべきなので、その世界に登場する社会体制や人々の在り方、街の風景はもっと複雑かつ高度な代物になる。もはや舞台は地球に限らないだろうし、つじつまを合わせるためには舞台の範囲を狭くするか、意図的に隔離された空間を持ち出すしかない。
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しかしまったく具合の悪いことに本作はAIの殲滅を画策する西側諸国と、AIとの共存を願うニューアジアなる連合体との対立をも描いた話なのだ……。物語のスコープが世界全域に及ぶ以上はどちらの手段も使えない。そこで、最初からロボット工学が発達した別の世界をでっち上げる方を選んだのだろう。40年程度の未来なら他の分野の進歩はまだ想定の範疇に収められる。
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こういう「妥当な言い訳」が本作にはよく散りばめられている。たとえば、物語全般に渡って事実上最大の敵として描かれる衛生兵器はいかにもSF的な圧倒的暴力を我々に見せつけてくれるが、レーザースキャンのような超技術で地表を分析できる割に、攻撃は全然普通に火薬を用いたミサイル弾で行うのだ。
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インパクトを重視するならそこはレーザービームみたいなやつでズバーンとやってくれた方が好ましいはずだ。だが、本作はそれをしない。登場する通常火器も頑なに実弾志向でちゃらちゃらしたトリガーハッピーな武器は一切出てこない。おかしいぞ、と僕は思った。この作品は食べ慣れたあの味じゃなさそうだ、変わった出汁の味がする。
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## 静謐な画作り
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物語が進むと嫌でも分からせられる。彩度の抑えられた画作りで展開される静かなカットインの数々が、これはお前らが期待したマルゲリータ・ピザでもチキン・ナゲットではないと宣告する。やられた。小麦と肉が焼けるありきたりな匂いで誘っておきながら、実際には別のものを食わせようという魂胆だ。
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予め言っておくと、本作に予想を裏切るような、機械対人間の連綿としたサーガに新たな解釈を刻み込むようなアプローチはまず行われていない。物語の展開はおおそ予想可能であり敵は確実に倒される。だが、それでも一つ一つの仕事を丁寧にやってのけている。難しい言葉で視聴者を煙に巻かずとも、説得力のある落ち着いた映像の動きで機械や構造の働きを示唆できている。
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これは簡単なようで実はとても難しい。はっきりと分かるように描くといかにもあけすけで、トランスフォーマーやマーベル作品に似た画作りに寄ってしまう。あれはあれでしっかりと食べ慣れたベーコン・レタス・バーガーの味なのでなんの問題もないが、本作はもっとタイトでシャープな領域を目指している。
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かといって、あまりにも落ち着きすぎていると単純に面白くない。娯楽作品として提示したからには娯楽作品ならではの満足感を顧客に与えなければならない。そこを履き違えると2001年宇宙の旅の失敗したバージョンに堕し、その味付けは限りなくハンバーガーの包装紙に近いものになる。
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”それにしても、まだ子どもの私が「上官」とか「管制官」とか言って、言葉にしてみたらずいぶんおかしい話に聞こえるでしょうね。今の私はなんでも中尉なんだそうです。私よりたっぷり何フィートも大柄な男の人たちが、前を歩くとさっと左右に避けてくれるのが分かります。姿は見えなくても足音でだいたいどんな人なのか分かりますから。”
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チーン。また、音が鳴った。再びレバーを引いて改行する。
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”いつか少佐になったら、私たちの鉤十字が輝くコペンハーゲンの空を飛んで、お父さんに会いに行く許可をもらおうと思います。少佐だったら、ついでに山ほどのチョコレートを買うことも許されそうな気がします。その日まで、どうかお元気で。ハイル・ヒトラー”
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チョコレート……そう、チョコレートだ、と私は唐突に思い至った。今週、給金を頂いたから、コペンハーゲンのチョコレートは無理でも近所のチョコレートは買える。
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「すっかり上達したようだね」
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不意に背後から話しかけられてぎくりとしたものの、声の主が他ならぬ管制官と分かった途端に私はその場で直立して右手を高く掲げていた。
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「ハイル――」
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