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Rikuoh Tsujitani 2023-10-21 22:21:31 +09:00
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title: "久しぶりにTRFを聴いた"
date: 2023-10-21T20:13:18+09:00
draft: true
tags: ['diary']
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選りすぐりのお気に入りばかりを集めた一軍プレイリストに入っているのに、なぜか聴く機会が少ない曲がある。思い入れが深すぎて逆に簡単には聴けないのだ。僕にとってはTRFがそうだ。僕が生まれた年と同じ時期にメジャーデビューを果たして、以降は浮き沈みを繰り返しつつも今日に至るまで現存している。J-POP界の生ける伝説と言っても過言ではない。
僕がTRFと出会ったのは7歳か、8歳か、それくらいの頃だと思う。当時、観ていた映画か、テレビ番組か、なにに影響を受けたのか定かではないが、僕は唐突に「音楽を聴く機械が欲しい」とママにねだった。対するママは一桁年齢の子どもに高価な新品のオーディオ製品を買い与えることを躊躇した。そこで手渡されたのが、初代ウォークマン「TPS-L2」だった。昔から今までちまちまと使い続けていたらしいそれは、前世紀末の時点ですでにぼろぼろに薄汚れていた。
だが、まごうことなき音楽を聴くための機械が手に入った。さっそく母から使い方を教えてもらって、与えられたカセットテープを端から端まで聴いた。その異様に洋楽主体なぜかカーペンターズがやたら重複して入っていたのライブラリは一桁年齢の子どもには少々早すぎた一方、数少ない日本語の音楽が陸王少年の心を捉えた。それこそがTRFとの出会いである。
僕はTRFを聴き続けた。豊富にあったカーペンターズやクイーンやティアーズ・フォー・フィアーズをガン無視して、TRFのカセットテープを再生し続けた。最後まで聴き終わったら、ウォークマンを操作してテープを巻き戻す。そして、最初から聴き直す。暇さえあれば聴いていたので難聴を心配された。あとカーペンターズも聴きなさいと言われた。
そんな調子でやっているから、一桁年齢の子ども特有の扱いの悪さも相まってTRFのカセットはすぐさま伸びきった。テープが伸びきったカセットはまともに再生ができなくなる。しかしアナログメディアの特長として、まともには再生できないが完全に再生できなくなるとは限らない。たとえば、僕が一番好きな「CRAZY GONNA CRAZY」は、テンションが最高に盛り上がる2回目のサビでたまに音が途切れて強制スキップを余儀なくされた。
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具体的には3分23秒くらい。だいたい3回に1回の割合で起こる。強制スキップが入ると次に「Overnight Sensation 時代はあなたに委ねてる」が流れる。これも好きな曲だが「CRAZY GONNA CRAZY」を聞き逃した欲求不満感は耳の奥に残った状態だ。このまま聴き続けるか、カセットテープを巻き直して「再抽選」を行うか、微妙な判断が日々求められた。
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もちろん、いくら純朴な少年でもこんな真似を何十回も繰り返せば「新しいカセットを買ってもらえばいいんじゃないか」と気づく。しかしママは首を横に振った。遅すぎたのだ。前世紀は終わり、真のデジタル社会が到来していた21世紀の世界では、TRFは人気でもカセットテープはもはや売られていなかった。最先端はもはやiPodを筆頭とするMP3プレイヤーであり、次いでCDかMDだった。そして、ママは「そのうち買ってあげるから」と言い、代わりにカーペンターズを聴くように勧めた。
10歳頃、曖昧な約束がついに果たされてCDウォークマンが与えられた。初めてのデジタル音源で聴くTRFはなんだか変な感じがした。音が一つ一つ粒立っていて、耳の奥に情報をはっきりくっきりと押し込んできて、ちょっと疲れる。とはいうものの、いざCDに馴染んでからカセットを聴くと嘘みたいにイズを感じるのだから不思議なものだ。さすがにTPS-L2はそれからほどなくしてお役御免となった。捨てずにとっておけばよかったな。
以来、僕の音楽環境は着実にステップアップしていった。中学生に上がった最初の誕生日にはiPodが、高校生に上がる頃にはバイトで稼いだ金で高級ヘッドフォンが、大学生の頃にはD/Aコンバータ複合機がそれぞれ手に入った。その間、僕の音楽ライブラリはひたすら肥大化していって、そのために第一軍のプレイリストの入れ替わりも激しかった。
それでもTRFはずっと一軍にいた。一つあたりの価格が10万円を超える単体のD/Aコンバータと、ヘッドフォンアンプと、ヘッドフォンで曲を聴いている今でも変わらない。でも身体に染み付いた条件反射ってやつはなかなか抜けきらないらしい。「CRAZY GONNA CRAZY」が例の3分23秒に差し掛かると、つい身構えてしまう。絶対に途切れないって分かっているはずなのにな。
歳をとって時代背景を知ると歌詞も味わい深い。バブル経済の残り香を漂わせる能天気なリズムがいっそすがすがしい。あるいはこれをすべて知り得た上で構わず必死に踊り狂っていると捉えると、また別の解釈も見えてくる。TRFのメンバーはもう大半がシルバー人材センターに登録可能な年齢だが、来年にはライブをやる予定だという。きっと骨になっても踊り続けるつもりなのだろう。
今や究極的な細分化の時代だ。キーやメロディがほんの少し違えば、別のジャンルとして扱われる。人々が音楽を希求する以上にそれは人々のアイデンティティを代表するものでもあるし、音楽を発信する側のプロデュースやブランディングの一環でもある。TRFもかつてはそれを模索していたが、まだそこには大衆音楽の幻想が生きていた時代の夕暮れを見ることができる。
ちなみに、カーペンターズもクイーンもティアーズ・フォー・フィアーズも中学生からはずっと一軍入りしている。だからさしずめ、僕の一軍プレイリストは三世代同居ってところかな。ここ数年に発売された曲も多いからね。
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