8話の途中
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合同誌企画作品.md
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@ -284,6 +284,26 @@ HID6が大きな平屋建ての前で止まった時、ようやく安堵の気
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帰還後、HID6はタングステンと共に追加の「成果物」ーー殺したイエローたちの生首と作業着の一部だーーを部屋のダッシュボードに投げ込んだ。まだ血に濡れたそれらは容器の中をどす黒い血液で汚したが、彼はまるで構わず、勤務評価さえ聞かずにチェンバー室の方へと帰っていった。聞かずとも評価は確定しているとでも言いたげの様子だった。
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事実、若干遅れて点灯したモノクロディスプレイには初のA評価が高らかに示された。立体映像の彼女もさっそく部屋の中央に現れて「初めてのA評価ですね、おめでとうございます」と律儀にお祝いの言葉をかけてくれた。でも僕は「ちっとも嬉しくないな」とそっぽを向いた。同僚へのかつてない嫌悪感が半分、彼女へのあてつけがもう半分を占めている。
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「なんで僕に前もって教えてくれなかったんだ」
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「すいません。適性分析の結果では、この種の情報開示に不向きだとーー」
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「適性なんて関係ないじゃないか! 君らはずっと僕たちに黙って人殺しをしていたんだ! 人類の復興が聞いて呆れるよ!」
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立体映像の女性が決まり悪そうにうつむいた。ただそれでも、自分たちのしていることが誤りだとは認識していない様子だった。
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「言いたいことは解ります。しかしながら、地上進出後のリソースはたいへん限られています。リソースの配分において永続的なイニチアシヴを握り、よりよく次世代の人類をリードすることこそが我が社の方針なのです」
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「みんなそうしたいんだから、誰も譲らなければ絶滅しかない」
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彼女はいつも礼儀正しく慇懃に見えて実は強情だ。一転、顔をあげて僕を正面から見据えるとはきはきと告げた。
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「当社は常にあらゆる手段を用いて融和の道を模索してきました。しかしどの会社もそうとは限りません。シェルターが存在する位置関係で得られる資源の上限や種類が定まり、センサの情報密度も決定づけられます。すべてを平等にはできないどころか、その時々の環境において大きく差が開いてしまいます。どんな条件を持ち出しても誰かが損をします。だから、結局は競争しかありません。均衡が訪れるとしたらもっと後です。我々はいま、かつての人類史の始点からやり直しているのです」
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僕はなにも言い返さなかった。ただ目をすぼめて彼女を見やる。きっとそれだけが理由ではないのだろう。今が本当に人類史の開闢なら、引き際を知らず戦い続ける族長は数の暴力で排除される。そして残った人間たち同士でけじめをつける。
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しかし我々は違う。文明社会が遺したシステムの遺産が、少数による多数の制御を可能にしてしまった。情報体の株主はボタン一つで情報体の従業員を解雇、すなわち削除できる。肉体を持つ僕たちとてチェンバーによる寿命の維持と、食事から排泄に至るまで大きく依存している。システムが我々を標準入力インターフェイスとして使うように、我々もまたシステムなくしては存在できない。地上には塩と殺風景な風景しかない。
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彼女は必ずしも自説を述べているわけではない。自分の立場を表明しているのだ。それと同時に、僕の立場をも説明している。
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「もし、都合が悪ければ今からでも適性を修正することは可能です。無理してリスクを負う必要はありません」
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唯一の上司の口調が急に柔らかくなり、暗に配置転換を勧めてきた。
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「僕ではうまくやれないと?」
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「そうではありません。ただ、無用な人的被害を避けるのにもっとも重要なのは勢力が拮抗していることです。あなたがこの種の仕事で積極的に役割を果たせなければ、すなわちそれは競合他社の進出を招く結果となります」
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正直なところ、逡巡しなかったといえば嘘になる。血みどろの諍いを避け、自社の営業範囲のずっと内側で安全な地質調査に従事する……。晴れの日にはいつものように澄み渡る乳白色の地平線の上で彫刻を作り、ひとりささやかな楽しみに浸る……。
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でも、僕は知ってしまった。知ってしまった後で知る前に戻るにはあと何百回も冷凍と解凍を繰り返さなければならない。たとえ塩に囲まれて暮らしていてもそんな無味乾燥の日々には耐えられない。一度余分に知ってしまったら知り続けるほか道はないのだ。
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