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標準入力インターフェイス.md
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標準入力インターフェイス.md
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@ -405,7 +405,7 @@ HID6はさらに一歩踏み出して、自分の背嚢を片手で引き下ろ
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「分かりました。僕が出張を申請するというのはどうでしょう。適性を再修正するんです。もしHID6の仕事に組み込まれたら……」
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「分かりました。僕が出張を申請するというのはどうでしょう。適性を再修正するんです。もしHID6の仕事に組み込まれたら……」
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提案を受けて、情報体たちの話し合いが一瞬ぴたりと止まった。ややあって、ぞろぞろと私見を述べる声が割って入る。
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提案を受けて、情報体たちの話し合いが一瞬ぴたりと止まった。ややあって、ぞろぞろと私見を述べる声が割って入る。
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〝なるほど、それで話の裏付けを試みようというわけですね。論理的な行いです〟
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〝なるほど、それで話の裏付けを試みようというわけですね。論理的な行いです〟
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〝だが、露見したら揉み消される可能性もある。HID6のユーザは大株主だ〟
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〝だが、露見したら揉み消される可能性もある。HID6のユーザは主要株主だ〟
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〝どのみち秘密裏に調査をする必要はある。懸念は取り除いておいた方がいい〟
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〝どのみち秘密裏に調査をする必要はある。懸念は取り除いておいた方がいい〟
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遅れて、最後に彼女が心配そうに言う。
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遅れて、最後に彼女が心配そうに言う。
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〝私は反対です。私のインターフェイスはまだ未熟でこの種の特殊な入力には……〟
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〝私は反対です。私のインターフェイスはまだ未熟でこの種の特殊な入力には……〟
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@ -469,84 +469,84 @@ HID23が立ち上がった瞬間、闇を貫いた運動エネルギーがその
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その背後から迫る他の黒装束の姿も。
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その背後から迫る他の黒装束の姿も。
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反射的に銃を構えてトリガーを引くと、狙い通りに彼の後ろの黒い塊が後方に吹き飛んだ。巨体の同僚は驚いて振り返ったが、向き直る頃には奇妙な笑みを湛えていた。
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反射的に銃を構えてトリガーを引くと、狙い通りに彼の後ろの黒い塊が後方に吹き飛んだ。巨体の同僚は驚いて振り返ったが、向き直る頃には奇妙な笑みを湛えていた。
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「夜勤<ナイト・シフト>に襲われて生き残るとは……お互い運が良かったな」
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「夜勤<ナイト・シフト>に襲われて生き残るとは……お互い運が良かったな」
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決死の瞬間をくぐり抜けた後、僕は自分がろくに息もしていなかったことに気がついた。急速に駆動を開始した呼吸器官の痛みに胸を抑えて地面に仰向けになる。場違いにきれいな星が点々と輝く夜空から右を向くと、すぐそばに黒装束の露わになった顔つきが目に入った。噂に聞く血に飢えた夜勤<ナイト・シフト>の素顔は、いたってありふれた中年女性にしか見えなかった。
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決死の瞬間をくぐり抜けた後、僕は自分がろくに息もしていなかったことに気がついた。急速に駆動を開始した呼吸器官の痛みに胸を抑えて地面に仰向けになる。場違いにきれいな星が点々と輝く夜空から目をそらすと、すぐそばに黒装束の露わになった顔つきが目に入った。噂に聞く血に飢えた夜勤<ナイト・シフト>の素顔は、いたってありふれた中年女性にしか見えなかった。
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10xx
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その日は全員起きたまま警戒にあたったが、二度目の襲撃はなかった。おそらく奇襲役の夜勤<ナイト・シフト>がこちら側を一人も削れずに死んだことで仕事を諦めたのだろう。肩に深手を負ったHID23は寝袋で即席の単価を拵えて交代で運搬することになった。
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その日は全員起きたまま警戒にあたったが、二度目の襲撃はなかった。奇襲役の夜勤<ナイト・シフト>がこちら側を一人も削れずに死んだので仕事を諦めたのだろう。肩に深手を負ったHID23は寝袋で即席の担架を作って交代で運搬することになった。
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幸いにも前日の進捗が良好だったおかげでさほど苦労せず目的地にたどり着いた。HID6が「ここだ」と言った箇所は四方が瓦礫の山に囲まれていたものの、納品物の鉱石が転がっていそうにはない。かといって地下施設や家屋を目指す動きもない。いよいよ僕は例の企みが実行に移される兆候を感じた。
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幸いにも前日の進捗が良好だったおかげでさほど苦労せず目的地にたどり着いた。HID6が「ここだ」と言った場所は四方が瓦礫の山に囲まれていたものの、納品物の鉱石が転がっていそうにはない。かといって地下施設や家屋を目指す動きもない。いよいよ僕は例の企みが実行に移される兆候を感じた。
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「ちょうど予定時刻だ」
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「ちょうど予定時刻だ」
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彼がそう言うが早いか、瓦礫の隙間の遠くから徐々に走行音がうなり、標準入力インターフェイスたちが電動バイクを駆って現れた。二人ともグレイの作業服を着ている。競合他社のインターフェイスだ。退路を塞ぐ形で僕たちの来た道にバイクを止めて降りると、直立不動の体勢で電動銃を突き出す。電動銃はバイクに似て黒く、角ばっていて僕たちのよりもだいぶ洗練されている。担架に両手を塞がれている僕たちは早くも形勢を失った。HID45が「なんだこいつらは」と叫んだが、HID6は無視して二人に話しかけた。
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彼がそう言うが早いか、瓦礫の隙間の遠くから徐々に走行音がうなり、標準入力インターフェイスたちが電動バイクを駆って現れた。二人ともグレイの作業服を着ている。競合他社のインターフェイスだ。退路を塞ぐ形で僕たちの来た道にバイクを止めて降りると、直立不動の体勢で電動銃を突き出す。銃はバイクに似て黒く角ばっていて、僕たちのよりもだいぶ洗練されている。担架に両手を塞がれている僕たちは早々に形勢を失った。HID45が「なんだこいつらは」と叫んだが、HID6は無視して二人に話しかけた。
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「誰も武装していない。銃を下ろしてくれ」
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「誰も武装していない。銃を下ろしてくれ」
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グレイの二人はロボットのようなカクついた動きで銃身の角度を下げたかと思えば、急に礼儀正しい態度になってお辞儀をした。
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グレイの二人はロボットじみたカクついた動きで銃身の角度を下げたかと思えば、急に礼儀正しい態度になって深々とお辞儀をした。
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「本日は弊社の選考にお越し頂き、誠にありがとうございます。さっそく面接を実施致します」
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「本日は当社の中途採用選考にお越し頂き、誠にありがとうございます。さっそく面接を実施致します」
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呆気にとられているうちに二人はポケットから取り出した小型の端末を僕たちにかざした。どういう意図があるのか分からないが、視界にちらつく電動銃のせいでむやみな抵抗はできない。最後に、担架の上のHID23に端末をあてるとグレイの片方が言った。
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意味不明な言葉の羅列に呆気にとられているうちに、二人は小型の端末をポケットから取り出して僕たちにかざした。どういう意図があるのか分からないが、視界にちらつく電動銃のせいでむやみな抵抗はできない。最後に、担架の上のHID23に端末を当てるとグレイの片方が言った。
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「以上で面接を終了致します。選考の結果、HID6様、HID11様、HID45様をぜひ当社に採用させていただく運びとなりましたことをご報告申し上げます」
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「以上で面接を終了致します。選考の結果、HID6様、HID11様、HID45様をぜひ当社に採用させていただく運びとなりましたことをご報告申し上げます」
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「こいつはどうなんだ」
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「こいつはどうなんだ」
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異様な言葉遣いをする二人組にも動じずHID6が担架の上の同僚を指差す。すると、グレイたちは直角よりも深い角度でお辞儀をした。
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奇妙な言葉遣いをする二人組にも動じずHID6が担架の上の同僚を指差す。すると、グレイたちは直角よりもさらに深い角度でお辞儀をした。
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「HID23様につきましては、慎重に選考を重ねました結果、誠に残念ではございますが選考を見送らせていただくことになりました」
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「HID23様につきましては慎重に検討を重ねましたが、誠に残念ながら貴意に添いかねる結果となりました」
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「は、はあ? なんだと、こら、おい――」
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「は、はあ? なんだと、こら、おい――」
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傷の深さでまともに身動きもとれないHID23が息も絶え絶えに訴える。なにか良くないことが起こっているらしい。
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傷の深さでまともに身動きもとれないHID23が息も絶え絶えに文句を漏らす。なにか良くないことが起こっているらしい。
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二人はお辞儀から直立姿勢に戻ると、今度は手を合わせて無言で祈りはじめた。肩にかけられた電動銃の揺れが自然に収まるまで不動の体勢は揺るがなかった。
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二人はお辞儀から直立姿勢に戻ると、今度は両手を合わせて無言で祈りはじめた。肩に回された電動銃の揺れが自然に収まるまで不動の体勢は揺るがなかった。
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「ねえ、どういう意味なの、それ」
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「ねえ、どういう意味なの、それ」
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「HID23様のご多望と益々のご活躍をお祈り申し上げます」
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「HID23様のご多望と益々のご活躍をお祈り申し上げます」
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ついに堪えきれず直接尋ねるも、答えは言葉ではない形で返ってきた。一糸乱れぬ動きで急に電動銃が水平に構えられ、一斉に銃撃が行われた。やや遅れて身の危険を察知したHID23が手を掲げて静止を試みるも、間もなく全身に大穴が穿たれる。直後、僕とHID45は担架を放りだして後ずさった。穴ぼこだらけの死体が投げ出されて地面に転がった。
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ついに堪えきれず直接尋ねるも、答えは言葉ではない形で返ってきた。一糸乱れぬ動きで電動銃が水平に構えられ、一斉に銃撃が行われた。やや遅れて身の危険を察知したHID23が手を掲げて静止を試みるも、間もなく全身に穴が穿たれる。直後、僕とHID45は担架を放りだして後ずさった。穴ぼこだらけの死体が投げ出されて地面に転がった。
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「それではHID6様。まずは約束のお品物をお納めください」
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「それではHID6様。まずは約束のお品物をお納めください」
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手負いのインターフェイスを容赦なく抹殺しておきながら、二人組はごく平坦な表情のままでHID6になにかを手渡した。鉱石だ。会議で納品物として指定されていたものと見た目が似ている。
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手負いのインターフェイスを容赦なく抹殺しておきながら、二人組はごく平坦な表情のままでHID6になにかを手渡した。鉱石だ。会議で納品物として指定されていたものと見た目が似ている。
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「おい、なんなんだこれはよ」
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「おい、なんなんだこれはよ」
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一緒に担架を持っていたHID45が異常な雰囲気を打ち消さんばかりに声を張った。ついに巨体の同僚が振り返って僕たちに向き直る。
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一緒に担架を持っていたHID45が異様な雰囲気を打ち消さんばかりに声を張った。ついに巨体の同僚が振り返って僕たちに向き直る。
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「いいか、おれたちのシェルターは終わりだ。開発競争で負けているし、持っている情報量も少ない。おまけに便器はいつも糞まみれ。このままいてもジリ貧だ。だから、転職する」
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「こいつらのユーザがどこにいるか知ったらぶったまげるぜ。おれたちのシェルターはもう終わりだ。それくらい開発競争で負けているし、持っている情報量も少ない。おまけに便器はいつも糞まみれ。このままいてもジリ貧だ。だから、転職する」
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ここへきて、転職というフレーズが躍り出た。今回の出来事のきっかけ。つまり、それは。
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ここへきて、転職というフレーズが躍り出た。今回の出来事のきっかけ。つまり、それは。
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分厚い身体を挟んで向こう側から声がした。
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分厚い身体を挟んで向こう側から声がした。
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「弊社の標準入力インターフェイスとして雇用させて頂く形となります。代わりに貴社のシェルターの位置、防御設備等を教えて頂きました」
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「当社の標準入力インターフェイスとして雇用させて頂く形となります。代わりに貴社のシェルターの位置、防御設備等について教えて頂きました」
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目の前の同僚は厳密にはもう同僚ではなくなったらしい。
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目の前の同僚は厳密にはもう同僚ではなくなったらしい。
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「は、背任行為だ。報告されたらお前もお前の情報体も懲戒されるぞ」
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「は、背任行為だ。報告されたらお前もお前の情報体も懲戒解雇されるぞ」
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HID45がさらに声を張り上げて非難を強める。だが、元同僚は気に留める素振りを見せない。
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HID45がさらに声を張り上げて非難を強める。だが、元同僚は挑発的に言い返した。
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「もし、それができなかったら?」
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「もし、それができなかったら?」
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「なんだと?」
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「なんだと?」
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再び、グレイの片割れが礼儀正しく答えた。
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再び、グレイの片割れが礼儀正しく答えた。
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「近年中に貴社に対して買収提案を差し上げる次第でございます」
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「近年中に貴社に対して買収提案を差し上げる次第でございます」
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そこへHID6が被せるように言う。
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そこへHID6が被せるように言う。
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「分かりやすく言ってやる。こいつらはおれたちのシェルターに攻めに来る。言っておくが、絶対に勝てない。いいから黙って首を縦に触れ。お前らの仕事の内容は変わらん。土いじりや内勤の仕事もしたけりゃある。着る服の色が変わるだけだ」
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「分かりやすく言ってやる。こいつらはおれたちのシェルターに攻めに来る。言っておくが、絶対に勝てない。いいから黙って首を縦に振れ。お前らの仕事の内容は変わらん。土いじりや内勤の仕事もしたけりゃある。着る服の色が変わるだけだ」
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「でもそうしたら、他のインターフェイスとか情報体の人たちはどうなるの、僕たちの会社の」
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「でもそうしたら、他のインターフェイスとか情報体の人たちはどうなるの、僕たちの会社の」
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「どうでもいいだろ、そんなこと。やつらもおれたちのことなんか気にかけちゃいない」
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「どうでもいいだろ、そんなこと。やつらもおれたちのことなんか気にかけちゃいない」
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僕はHID6の目をじっと見つめた。濃い茶色の眼差しにはまだ嘘みたいに温かみが感じられた。
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僕はHID6の目をじっと見つめた。濃い茶色の眼差しには嘘みたいに温かみが宿っていた。
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「分かった、会社にこだわりはないよ」
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「分かった、会社にこだわりはないよ」
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「……おれもだ」
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「……おれもだ」
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「そうか、よし」
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「そうか、よし」
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彼は大きな手のひらで僕たちの肩をぽんぽんと叩いた。
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彼は大きな手のひらで僕たちの肩をぽんぽんと叩いた。
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ある意味で、嘘ではなかった。遠い昔に死んだ父親がたまたま株主で、シェルターの契約が株主優待に含まれていたという前提なくして僕がオレンジの作業服を着る理由はない。
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ある意味で、嘘ではなかった。遠い昔に死んだパパがたまたま株主で、シェルターの契約が株主優待に含まれていたという前提なくして僕がオレンジの作業服を着る理由はない。
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「たいへんご面倒をおかけしますが、保安上の理由からお手持ちの武器を回収させて頂いてもよろしいでしょうか」
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「たいへんご面倒をおかけしますが、保安上の理由からお手持ちの武器を回収させて頂いてもよろしいでしょうか」
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グレイたちの要請に従い、背嚢から電動銃を取って元同僚に差し出した。振り返った彼がそれを引き渡す。
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グレイたちの要請に従い、背嚢から電動銃を取って元同僚に差し出した。振り返った彼がそれを引き渡す。
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「申し訳ありませんが、念のため刀剣類もお預かり致します」
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「申し訳ありませんが、念のため刀剣類もお預かり致します。武器には違いありませんので」
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「そうだね」
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「そうだね」
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今度はわざと腰を落として前屈みになり、時間をかけて背嚢の中をまさぐりながらナイフを取り出した。また代わりに受け取ったHID6が振り返り、グレイに手渡す。
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わざと腰を落として前屈みになり、時間をかけて背嚢の中をまさぐりながらナイフを取り出した。また代わりに受け取ったHID6が振り返り、グレイに手渡す。
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今の彼は隙だらけだ。
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今の彼は隙だらけだ。
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後方のHID45と視線を合わせた。彼は今まさに、背嚢から電動銃を出してもう片方のグレイに差し出すところだった。横顔に浮かぶ不安な目元が、交差すると微かに瞬いた。
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後方のHID45と視線を合わせた。今まさに、電動銃をもう片方のグレイに差し出すところだった。横顔に浮かぶ不安な目元が、交差すると微かに瞬いた。
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やれる。
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やれる。
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刹那、僕は背嚢から鋭い塩の鏃を抜き取り、広々とした巨体に突き刺した。塩のモース硬度は二.〇以上もある。実は石膏よりも固い。尖った先端は彼の筋肉の中に吸い込まれるようにして入っていき、手のひらに生々しい嫌な感触を残した。彼の野太い絶叫が辺りにこだまする。グレイたちの注意がそれた。
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刹那、僕は背嚢から鋭い塩の鏃を抜き取り、広々とした巨体に突き刺した。ちなみに、塩のモース硬度は二.〇以上もある。実は石膏よりも固い。尖った先端は彼の筋肉の中に吸い込まれるようにして入っていき、手のひらに生々しい嫌な感触を残した。彼の野太い絶叫が辺りにこだまする。グレイたちの注意がそれた。
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入れ違いに、HID45が銃身を振り払って構えると眼前のグレイに向けて発砲した。続けて、もう片方のグレイにもエネルギーの弾丸を浴びせる。後には顔を激情に歪めた元同僚が残された。
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入れ違いに、HID45が銃身を振り払って構えると眼前のグレイに向けて発砲した。続けて、グレイの片割れにもエネルギーの弾丸を浴びせる。後には顔を激情に歪めた元同僚が残された。
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「お前ら、やりやがったな」
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「お前ら、やりやがったな」
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「この件は帰ったら直ちに報告する。覚悟しろ」
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「この件は帰ったら直ちに報告する。覚悟しろ」
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銃口を果敢に突きつけてHID45が宣告する。対するHID6は膝をついたまま薄暗く笑った。
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銃口を果敢に突きつけてHID45が宣告する。対するHID6は膝をついたまま薄暗く笑った。
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「どう報告する。おれの情報体は大株主だぞ。木っ端インターフェイスどもの証言など」
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「どう報告する。おれの情報体は主要株主だぞ。木っ端インターフェイスどもの証言など」
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「いや、実はずっと証拠を記録していた。これがカメラだ」
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「いや、実はずっと証拠を記録していた。これがカメラだ」
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胸元のポケットからわずかにはみでたレンズを指先で叩いて示すと、彼は笑いを止めた。そしてごく静かな物腰で「そうか、やるな」とつぶやいた。
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胸元のポケットからわずかにはみでたレンズを指先で叩いて示すと、彼は笑いを止めた。そして、ごく静かな物腰で「そうか、やるな」とつぶやいた。
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だが、次の瞬間。
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次の瞬間。
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すばやく立ち上がった彼は自らの巨体から塩の鏃を抜き取り、HID45に襲いかかった。片手で容易く銃身を押さえつけた直後、明後日の方向に振れた銃口からエネルギーの塊が何発か飛び出して虚空に消える。役目はそれで終わりだった。彼の右手に握られた突端が同僚の首元に深々と突き刺さる。一回、二回、三回。首筋からどばどばと吹き出した鮮血が作業服をたちまちレッドに染め上げた。事切れた死体をボロ布でも放るようにして投げ出すのを見た途端、僕は電動バイクに向かって一目散に駆け出した。
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すばやく立ち上がった彼は自らの巨体から塩の鏃を抜き取り、HID45に襲いかかった。片手で強引に銃身を押さえつけた矢先、明後日の方向に振れた銃口からエネルギーの塊が何発か飛び出して虚空に消える。銃の役目はそれで終わりだった。彼の右手に握られた突端が同僚の首元に深々と突き刺さる。一回、二回、三回。首筋からどばどばと吹き出した鮮血が作業服をたちまちレッドに染め上げた。事切れた死体をボロ布でも放るようにして投げ出すのを見た途端、僕は電動バイクに向かって一目散に駆け出した。
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幸いにも、グレイたちの電動バイクは僕の背丈にもよく適応して動いてくれた。またがってハンドルをひねった瞬間、まるで自律的に銃身を保っているかのようにまっすぐ走り出した。多少の荒道をものともせず進み、振動もほとんどない。流れゆく景色はさほど時間が経たないうちに濁った白の地平線に置き換わった。滑らかな擦過音と響く風のうなりに紛れて、背後から運動エネルギーの弾道が空気を切り裂いてやってくる。
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グレイたちの電動バイクは僕の背丈にもよく適応して動いてくれた。またがってハンドルをひねった瞬間、まるで自律的に重心を保っているかのようにまっすぐ走り出した。多少の荒道をものともせず進み、振動もほとんどない。流れゆく景色はさほど時間が経たないうちに濁った白の地平線に置き換わった。滑らかな擦過音と響く風のうなりに紛れて、背後から運動エネルギーの弾道が空気を切り裂いてやってくる。
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ハンドルを強く握りしめながら振り向くと、HID6も電動バイクを駆って迫ってきていた。大型の電動銃を片手で器用に操りながら銃撃を重ねる。僕は時々、左右に車体を揺らして射線をずらして対応した。しかしこれこそが元同僚の狙いに違いなかった。直線に移動し続ける物体と多少なりとも蛇行する物体では、走行性能が同等なら次第に距離間隔が縮む定めにある。
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ハンドルを強く握りしめながら振り向くと、HID6も電動バイクを駆って迫ってきていた。大型の電動銃を片手で器用に操りながら銃撃を重ねる。僕は時々、左右に車体を揺らして射線をずらして対応した。しかしこれこそが元同僚の狙いに違いなかった。直線に移動し続ける物体と多少なりとも蛇行する物体では、走行性能が同等なら次第に距離間隔が縮む定めにある。
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やがて当初のリードは段階的に縮小していき、一〇〇メートル以上はあった間隔は五〇メートル前後にまでチヂミ、電動バイクのタイヤが再び土を踏む頃には叫び声が届くほどになっていた。事実、後方から彼の怒声が聞こえた。
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やがて当初のリードは段階的に縮小していき、一〇〇メートル以上はあった間隔は五〇メートル前後にまで狭まり、電動バイクのタイヤが再び土を踏む頃には叫び声が届くほどになっていた。事実、後方から彼の怒声が聞こえた。
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「やっぱり背中を撃つのが一番楽しいな!」
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「やっぱり背中を撃つのが一番楽しいな!」
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まばらに広がるソーラーパネルの群れを通り抜け、辛くもシェルターの前に車体を滑り込ませると運良く隆起していた入口に走り込む。転がるようにして階段を降りて扉の先の細い通路を全力で駆け抜けた。あと数歩で曲がり角にたどり着くというところで、背後から追いついたエネルギー弾が僕の脇腹を切り裂いた。痛みと衝撃に思わず身体を壁面に打ちつける――真新しい血痕が壁にこびりつき、垂れた血が床をしたたかに汚した。血の汚れをきれいにするのはとても面倒だ。内勤のインターフェイスに申し訳ないことをした。
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まばらに広がるソーラーパネルの群れを通り抜け、辛くもシェルターの前に車体を滑り込ませると隆起していた入口に走り込む。転がるように階段を降りて扉の先の細い通路を全力で駆け抜けた。あと数歩で曲がり角にたどり着くというところで、背後から追いついたエネルギー弾が僕の脇腹を切り裂いた。痛みと衝撃に思わず身体を壁面に打ちつける――どす黒い血痕が壁にこびりつき、垂れた血が床をしたたかに汚した。血の汚れをきれいにするのはとても面倒だ。内勤のインターフェイスに申し訳ないことをした。
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意に反して力が抜けた全身を引きずりながら廊下を歩き、本来のルーティーンを省略してチェンバー室に向かった。この状況では勤務査定など受ける間もなくカメラを取り上げられる。僕の身を守ってくれるもの……それはチェンバー殻しかない。よろよろとした足取りで手前の殻を叩くと、手のひらの血が表面にべったりとくっついた。せり出した殻が開ききる前に身体をねじ込んで閉塞処理を開始させる。
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意に反して力が抜けた全身を引きずりながら廊下を歩き、本来のルーティーンを省略してチェンバー室に向かった。この状況では勤務査定など受ける間もなくカメラを取り上げられる。僕の身を守ってくれるもの……それは、チェンバー殻しかない。よろよろとした足取りで手前の殻を叩くと、手のひらの血が表面にべったりとくっついた。せり出した殻が開ききる前に身体をねじ込んで閉塞処理を開始させる。
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殻が閉まるか閉まらないかの瀬戸際、強化ガラスを隔てて汗と血にまみれたHID6が目の前に現れた。強く殻を叩くも、一度誰かが入ったチェンバー殻が開くことはない。
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殻が閉まるか閉まらないかの瀬戸際、強化ガラスを隔てて汗と血にまみれたHID6が目の前に現れた。強く殻を叩くも、一度誰かが入ったチェンバー殻が開くことはない。
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||||||
じきに、今すぐ殺せないことを悟った元同僚は不敵な笑みを浮かべてガラス越しに叫んだ。
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じきに、今すぐ殺せないことを悟った元同僚は不敵な笑みを浮かべてガラス越しに叫んだ。
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「それで勝ったつもりか? 言っておくがな、おれは仕事を選べる。今から勤務査定に戻って、次の仕事にお前を指名して入れる。後で拒否しようが解凍される時は一緒だ。せいぜいよく眠っておくがいい……十キロは走らせるからな」
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「それで勝ったつもりか? 言っておくがな、おれは仕事を選べる。今から勤務査定に戻って、次の仕事にお前を指名して入れる。後で拒否しようが解凍される時は一緒だ。せいぜいよく眠っておくがいい……十キロは走らせてやるからな」
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||||||
悠然と立ち去っていく相手を見送りつつ、僕は殻の中で金切り声をあげた。
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肩を怒らせてのしのしと立ち去っていく巨体を見送りつつ、僕は殻の中で金切り声をあげた。
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「なあ、聞こえただろ! 助けてくれ! 見ただろ、あいつは僕を殺すつもりだ!」
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「なあ、聞こえただろ! 助けてくれ! 見ただろ、あいつは僕を殺すつもりだ!」
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||||||
〝分かっています。しかし現状ではHID6に重罰を課すことはできません。シェルター内のラインに映っている範囲では危害の直接的な証拠は確認されていません〟
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〝分かっています。しかし現状ではHID6に重罰を課すことはできません。シェルター内のラインに映っている範囲では危害の直接的な証拠は確認されていません〟
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||||||
彼女の声が殻のスピーカーを通して反響する。きっと彼は最後の銃撃を吹き抜けの細い通路から放ったのだろう。あそこにはラインがない。
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彼女の声が殻のスピーカーを通して反響する。きっと彼は最後の銃撃を吹き抜けの細い通路から放ったのだろう。あそこにはラインがない。
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@ -554,14 +554,14 @@ HID45がさらに声を張り上げて非難を強める。だが、元同僚は
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胸元のカメラのスイッチを押した。ランプが二回光って消灯する。録画完了だ。後は観る人さえいれば……。
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胸元のカメラのスイッチを押した。ランプが二回光って消灯する。録画完了だ。後は観る人さえいれば……。
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||||||
〝そこから私が回収することはできません。適切に納品されなければ〟
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〝そこから私が回収することはできません。適切に納品されなければ〟
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||||||
目の前が霞んできた。もう満足に声も出せない。
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目の前が霞んできた。もう満足に声も出せない。
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||||||
「今、ここから出たら死んでしまうよ、ていうか、もう、眠い……動けない」
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「今、ここから出たら死んじゃうよ、ていうか、もう、眠い……動けない」
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||||||
気だるげに頭を起こして傷口を見やると、殻が血で満たされるのではと錯覚するほど血があふれ出ていた。
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気だるげに頭を起こして傷口を見やると、殻が血で満たされるのではと錯覚するほど血があふれ出ていた。
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||||||
「冷凍、冷凍してくれ、頼む」
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「冷凍、冷凍してくれ、頼む」
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その声には彼女ではなくチェンバー殻のシステムが応答した。湾曲したガラスに文字列が二行にわたって並ぶ。
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その声には彼女ではなくチェンバー殻のシステムが応答した。湾曲したガラスに文字列が二行にわたって並ぶ。
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<警告。着衣状態では正常な冷凍が行われません>
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<警告。着衣状態では正常な冷凍が行われません>
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<警告。バイタルに異常を検知。正常な冷凍が行われません>
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<警告。バイタルに異常を検知。正常な冷凍が行われません>
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「いいから、冷凍……なんとか、してくれ」
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「いいから、冷凍……なんとか、してくれ」
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<強制冷凍シークエンス開始。本プログラムについて弊社は一切の法的責任を負いません。この件における免責事項をよくご覧頂き……>
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<強制冷凍シークエンス開始。本プログラムについて当社は一切の法的責任を負いません。この件における免責事項をよくご覧頂き……>
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彼女の声はもう聞こえてこなかった。文字列の続きも読めない。不思議と、いつもは不気味で仕方がなかった後頭部にドライバが差し込まれる感覚が妙に心地よかった。
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彼女の声はもう聞こえてこなかった。文字列の続きも読めない。不思議と、いつもは不気味で仕方がなかった後頭部にドライバが差し込まれる感覚が妙に心地よかった。
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夢は見ない。冷凍されている間の脳みそは当然ながら細胞単位で活動が停止しているため、電源を落としたコンピュータと同等の状態に至る。電源がないコンピュータが電気羊の夢を勝手に見ないように、僕たちの意識もまた諸神経の挙動に合わせて連続的に再開される。次に目が覚めた時、湾曲したガラスの表面に示された文字列がにわかに僕の恐怖を細胞単位で呼び起こした。胸の高鳴りと警告音が並走する。
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夢は見ない。冷凍されている間の脳みそは当然ながら細胞単位で活動が停止しているため、電源を落としたコンピュータと同等の状態に至る。電源がないコンピュータが電気羊の夢を勝手に見ないように、僕たちの意識もまた諸神経の挙動に合わせて連続的に再開される。次に目が覚めた時、湾曲したガラスの表面に示された文字列がにわかに僕の恐怖を細胞単位で呼び起こした。胸の高鳴りと警告音が並走する。
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<標準入力インターフェイス11:接続処理中>
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<標準入力インターフェイス11:接続処理中>
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@ -576,40 +576,46 @@ HID45がさらに声を張り上げて非難を強める。だが、元同僚は
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少々高い声で訴えるその男の口調にはひどく心当たりがあった。
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少々高い声で訴えるその男の口調にはひどく心当たりがあった。
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「まさか……HID6なのか」
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「まさか……HID6なのか」
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口を衝いて出た音は野太く低く、とても自分のものとは思われなかった。
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口を衝いて出た音は野太く低く、とても自分のものとは思われなかった。
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どういうわけか肉体が入れ替わったのだ。
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「返せっ、おれの身体だろ、返せっ!」
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「返せっ、おれの身体だろ、返せっ!」
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突如、平静を失ったHID6が突進してきた。彼の元の身体には及ばないとはいえ、中肉中背の成人男性の肉体だ。以前ならひとたまりもなく吹っ飛ばされただろう。しかし、今の僕にはまるで止まっているように見える。向かってきた全身を片手で受け止めると、彼の動きは簡単に封じられた。信じられないものを見る目が僕を見つめた。
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突如、平静を失ったHID6が突進してきた。彼の元の身体には及ばないとはいえ、中肉中背の成人男性の肉体だ。以前ならひとたまりもなく吹っ飛ばされただろう。しかし、今の僕にはまるで止まっているように見える。向かってきた全身を片手で受け止めると、彼の動きは容易く封じられた。信じられないものを見る目が僕を見つめた。
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太い腕をぬっと突き出して首筋を掴む。そんなに力を入れていないのに目測で一七〇センチメートルはゆうにありそうな成人男性の身体が宙に浮いた。HID6は足をじたばたを震わせて口元から途切れ途切れに声を漏らした。
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太い腕をぬっと突き出して首筋を掴む。そんなに力を入れていないのに目測で一七〇センチメートルはゆうにありそうな成人男性の身体が宙に浮いた。HID6は足をじたばたを震わせて途切れ途切れに声を漏らした。
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「待て――おれは、お前を――」
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「待て――おれは、お前を――」
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ぐっ、と一息に力を込めると、あっけなく首の骨が割れた。ビクンと一回だけ大きく痙攣した元同僚はそれきり、二度と動かなくなった。
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力を込め続けるとじきに彼は口元から泡を吹いて頭を垂れた。意識の失った肉体を床に放り投げて左右のチェンバー殻を目で探る。ほどなくして、元の自分が収められていたものを発見した。
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床に死体を投げ出して左右のチェンバー殻を目で探る。ほどなくして、元の自分の肉体が収められていたものを発見した。
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その肉体は青く霜の吹いた生気のない顔で横たわっていた。流れる血液ごと凝固して凍っている姿はいっそ芸術的でもあった。殻の表面に静かに触って開くと、かつての自分の胸元に聖遺物の神々しさで佇むカメラを回収した。
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その肉体は青く霜の吹いた生気のない顔で横たわっていた。流れる血液ごと凝固して固まっている様子はいっそ芸術的でもあった。殻の表面に静かに触って開くと、かつての自分の胸元に聖遺物の神々しさで佇むカメラを回収した。
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せめて服くらいは着なければ。更衣室でHID6の服を拝借している最中に、天井から大音量で放送が流れた。
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せめて服くらいは着なければ。更衣室でHID6の服を拝借して着ていると、天井から大音量で放送が流れた。
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<当施設の経営権は当社に移行されました。標準入力インターフェイスの皆様はただちに業務を中断してください。有給休暇の取得をご希望の方は両手を組んで頭の後ろに回し、所定の位置に並んでください。繰り返します……>
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<当施設の経営権は弊社に移行されました。標準入力インターフェイスの皆様はただちに業務を中断してください。ただいまより有給休暇と致します。繰り返します……>
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廊下に出ると、そこには凄惨な光景が広がっていた。警告灯という警告灯が光り、ただでさえひび割れまみれの壁には大小の穴が穿たれ、至るところに死体が転がっていた。会議室に着くまでの間、ワンダースをゆうに超えるインターフェイスの残骸を目の当たりにし、先の放送も同じくらい繰り返された。
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廊下に出ると、そこには異様な光景が広がっていた。警告灯という警告灯が光り、ただでさえひび割れまみれの壁には大小の細かい穴が穿たれ、至るところに死体が転がっていた。会議室に向かうまでの間、ワンダースにものぼるインターフェイスの残骸を目の当たりにし、先の放送も同じくらい繰り返された。
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会議室の中でイヤホンをつけると――この場合、HID6のユーザに接続されるのではと懸念したが――問題なく彼女の声が聞こえたので安堵した。
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会議室の中でイヤホンをつけると――この場合、HID6のユーザに接続されるのでは、と懸念したが――問題なく彼女の声が聞こえたので安堵した。
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〝ああ、無事だったんですね、良かった……〟
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〝ああ、無事だったんですね、良かった……〟
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「聞きたいことは山ほどあるけど、まずはこれを」
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「聞きたいことは山ほどあるけど、まずはこれを」
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カーゴにカメラを引き渡すと、しばらくしてあたかも事前問答集を用意していたかのような滑らかさで彼女は説明を始めた。
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カーゴにカメラを引き渡すと、しばらくしてあたかも事前問答集を用意していたかのような滑らかさで彼女は説明を始めた。
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〝あなたの元の身体は冷凍に失敗しました。着衣状態に加えて手の施しようもないほど失血していたのです。ですが、脳の方は無事でした。こうした状況下の時、システムは自動的に適合する代替の肉体を検索します〟
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〝あなたの元の身体は冷凍に失敗しました。着衣状態に加えて手の施しようもないほど失血していたのです。ですが、脳の方は無事でした。こうした状況下の時、システムは自動的に適合する代替の肉体を検索します〟
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「それが……HID6の身体だったのか」
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「それが……HID6の身体だったのか」
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〝もちろん、自然にそうぴたりとは決まりません。私が細工をして優先順位を最大に引き上げました。彼は――HID6は、あなたを次回の拡張入力に指定していました。かなり短い間隔です。もしそうでなければシステムはもっと時間をかけて競合しないボディを探したでしょう。平たく言えば、自滅したようなものですね〟
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〝通常、すでに運用中の肉体が適用されることはありませんが、あのインターフェイスはわざわざあなたを次回の拡張入力に指定していました。これにより優先順位の細工が容易になったのです。まあ、半ば自滅したようなものですね〟
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過剰な殺意を持て余したばかりに自分自身の身体によって滅ぼされる。まるでおとぎ話みたいだ。
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過剰な殺意を持て余したばかりに自分自身の身体によって滅ぼされる。まるでおとぎ話みたいだ。
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「じゃあ、録画の方はどうなんだ。これでどうにかなるの?」
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「じゃあ、録画の方はどうなんだ。これでどうにかなるの?」
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今度は回答までにずいぶん時間がかかった。
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今度は回答までにずいぶん時間がかかった。
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〝大変でしたね。本当によく頑張りました。……けど、事態を解決するには間に合いませんでした〟
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〝大変でしたね。本当によく頑張りました。……ですが、事態を解決するには間に合いませんでした〟
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「さっき、廊下に死体がたくさん転がっていたね」
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「さっき、廊下に死体がたくさん転がっていたけど」
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〝あなたが冷凍されている間、競合他社が敵対的買収を仕掛けてきました。我々は多数の標準入力インターフェイスを防衛に投入しましたが、相手の装備と物量には敵わず、ついに侵入を許してしまったのです〟
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〝あなたが冷凍されている間、私の派閥は状況証拠をもとにHID6のユーザの解任動議に動き出しました。健康診断を再開する提案などが主要な計画でした。しかし、例の競合他社が敵対的買収を仕掛けてくるとすべてが有耶無耶になり、我々は防衛に専念せざるをえない状況に追い込まれました〟
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「え、じゃあ」
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「え、じゃあ」
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〝そうです。相手方にも相応の損害を与えましたが、もはやこのシェルターに防衛能力はありません。主だった株主たちも競合他社が用意した衛星通信経由のネットワークリンクを通じて、株式の売却と引き換えに転職していきました〟
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HID6は「絶対に勝てない相手」だと言っていた。つまり。
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HID6の企みはたった一人のものではなかった。この会社はとっくに存亡の淵に立たされていたのだ。
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〝そうです。敵はこの上なく強力でした。相手方にも相応の損害を与えましたが、もはやこのシェルターに防衛能力はありません。HID6のユーザを含め、主だった株主は競合他社が用意した衛星通信経由のネットワークリンクを通じて、株式の売却と引き換えに去っていきました〟
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〝現在、敵集団は最下層に向かっています。私がエレベータを封鎖したので階段を使っているようですが、いずれサーバ室にたどり着くでしょう。これは、あなたにとっては好機です〟
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元同僚の企みはたった一人のものではなかった。この会社はとっくに存亡の淵に立たされていたのだ。
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<……有給休暇の取得をご希望の方は両手を組んで……>
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「ところで有給休暇ってどういう意味?」
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〝元の意味はともかく、取ろうとしたインターフェイスは例外なく破壊されました〟
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冷たく答えた彼女は仕切り直すように間をおいて続けた。
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〝ともかく現在、敵集団は最下層に向かっています。私がエレベータを停止したので階段を使っているようですが、いずれサーバ室にたどり着くでしょう。これは、あなたにとっては好機です〟
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「どうして?」
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「どうして?」
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〝生き残ったセンサ類を確認したかぎり、地表に不審な熱源反応はありません。私が今から培養プラントとエレベータを稼働させるので、この隙に地上に脱出してください〟
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〝生き残ったセンサ類を確認したかぎり、地表に不審な熱源反応はありません。私が今から培養プラントとエレベータを稼働させるので、この隙に地上に脱出してください〟
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「脱出って……その後はどうすればいいんだ? 君はどうなるんだ?」
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「脱出って……その後はどうすればいいんだ? 君はどうなるんだ?」
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表示がかすれ気味のモノクロスクリーンに地図が表示される。そう遠くない距離に三つの点が穿たれた。
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表示がかすれ気味のモノクロスクリーンに地図が表示される。そう遠くない距離に三つの点が穿たれた。
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〝これらは我々が認識している、比較的穏健な競合他社の一覧です。あなたはこのいずれかに向かい、あなたがたが言うところの転職を成功させなければなりません〟
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〝これらは我々がかつて認識していた、比較的穏健な競合他社の一覧です。あなたはこのいずれかに向かい、あなたがたが言うところの転職を成功させなければなりません〟
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「穏健と言ったって……敵じゃないか! そんな相手に、どうやって」
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「穏健と言ったって……敵じゃないか! そんな相手に、どうやって」
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---ここから再開
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しかし、彼女は一歩も譲らずに言い張った。
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しかし、彼女は一歩も譲らずに言い張った。
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〝他に手はありません。なるべく多くの備蓄食糧を持って、好機を掴んでください。どのみち私はサーバが接収された後に懲戒解雇される定めです。このシェルターはじきに機能を失います〟
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〝他に手はありません。なるべく多くの備蓄食糧を持って、好機を掴んでください。どのみち私はサーバが接収された後に懲戒解雇される定めです。このシェルターはじきに機能を失います〟
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メンテナンスを受けられない標準入力インターフェイスは無力だ。問題を先送りにできる冷凍冬眠設備と、原材料も製法も不明のまずい食糧と水がなければ僕たち標準入力インターフェイスは三日と生きられない。
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メンテナンスを受けられない標準入力インターフェイスは無力だ。問題を先送りにできる冷凍冬眠設備と、原材料も製法も不明のまずい食糧と水がなければ僕たち標準入力インターフェイスは三日と生きられない。
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@ -687,7 +693,7 @@ HID6の優れた肉体は彼女の入力支援になめらかに反応して動
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〝それではさようなら。その私といつか話せたらよろしく伝えてください。ちゃんとよく寝て、健康に暮らしてください〟
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〝それではさようなら。その私といつか話せたらよろしく伝えてください。ちゃんとよく寝て、健康に暮らしてください〟
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「次はママみたいに話すなって言うよ」
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「次はママみたいに話すなって言うよ」
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敵味方のインターフェイスたちの骸が散乱する廊下を通り、物言わぬ除染室をくぐって脱衣する。エレベータで地上階に上がると細い通路を抜けて長い階段を登る。
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敵味方のインターフェイスたちの骸が散乱する廊下を通り、物言わぬ除染室をくぐって脱衣する。エレベータで地上階に上がると細い通路を抜けて長い階段を登る。
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地上には敵の姿はなかった。ただ、捨て置かれた大小の装置やら戦闘車輌やらバイクやらが散乱している。僕はその中から自分でも動かせそうな電動バイクを拝借してまたがった。時速一〇〇キロメートルの速度で白く濁った景色が前から後に流れていく。
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地上には敵の姿はなかった。ただ、捨て置かれた装置やら戦闘車輌やらバイクやらが散乱している。僕はその中から自分でも動かせそうな電動バイクを拝借してまたがった。時速一〇〇キロメートルの速度で白く濁った景色が前から後に流れていく。
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転職はしない。彼女はきっと異議を唱えるに違いないが、決めるのは僕だ。
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転職はしない。彼女はきっと異議を唱えるに違いないが、決めるのは僕だ。
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ハンドルを思い切り切ると、塩の地平線に向かって走り出した。どこかで塩の層が途切れて水の海に出会えるのかもしれないし、延々と歩いた先に別の島か大陸が顔を出すのかもしれない。
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ハンドルを思い切り切ると、塩の地平線に向かって走り出した。どこかで塩の層が途切れて水の海に出会えるのかもしれないし、延々と歩いた先に別の島か大陸が顔を出すのかもしれない。
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僕はもう標準入力インターフェイスではない。この世界で唯一の完全に独立した標準入出力システムなのだ。
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僕はもう標準入力インターフェイスではない。この世界で唯一の完全に独立した標準入出力システムなのだ。
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