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合同誌企画作品.md
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合同誌企画作品.md
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@ -160,11 +160,43 @@ HID39は顔半分だけ振り返ってつぶやいた。無表情で抜け目な
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「お前も質問した方がいいんじゃないか。やったことがないなら色々知りたいだろう」
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「いや……いいよ。必要がなくなった。実は同じ質問をしようと思ってたんだ」
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努めて平静を装って答えると巨体の肉体がわずかに揺れて「へえ」と微笑んだ。だが、それだけで踵を返すやいなやさっさと先に行ってしまった。慌てて僕も追いすがる。一人が乗るにしては広いと思っていたエレベータも彼と同席だとずいぶん狭く感じられた。細い通路を一列に並んで進んだ後の危険物室では、いきなり大型の電気銃が投げ渡されたので取り落としてしまった。
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「いいか、怪しいやつがいたらとりあえず撃て。どんな理屈をひねろうが先に撃たれたらおれたちは死んで終わりだからな。撃った理由なんて後から考えりゃいい」
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銃を拾い上げて持たせてくれた彼はしかし、気遣いの反面、脅しともとれる圧力をもって僕に告げた。さっきまではひそかに燃えていた新しい職責への熱意も、長い階段を昇る頃には恐怖へと変わっていた。
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「いいか、怪しいやつがいたらとりあえず撃て。撃った理由なんて後から考えりゃいい」
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銃を拾い上げて持たせてくれた彼はしかし、気遣いの反面、脅しともとれる圧力をもって僕に押し迫った。さっきまではひそかに燃えていた新しい職責への熱意も、長い階段を昇る頃には恐怖へと変わっていた。
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改めて言うまでもない話だが、質問の必要がないというのは嘘だ。本当は彼女とめちゃくちゃ話したかったし、どういう危険があるのか具体的にレクチャーしてほしかった。そうでなくても配置転換を実現してくれたことへの感謝とか、感謝に対する励ましとか、そういったものが聞きたくて仕方がなかった。
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でもHID6にそんな振る舞いを見せるのは嫌だった。彼に答える情報体はとてもビジネスライクで僕のとはまるきり違っていたからだ。
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それでも透き通ったそよ風が吹く地上世界はいつも通り格別だった。金属製の背嚢は確かに重くて辛かったが、歩いているうちに重心のコツが掴めてきた。僕の先を行く山のような巨体の同僚は道連れとしては口数が少なく物足りないとはいえ頼もしくはあった。そんな彼は危険地域の土地勘があるらしく、今は電気銃を折りたたんで背嚢にしまい込んでいる。僕もそれに倣って両手を揺らしながらしばらく乳白色の地面を鳴らして楽しんだ。
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今回通っている固形の海の道筋は僕が行ったことのある方向とはだいぶ違っていた。いつもならすぐに陸地が見えたが、今日はいつにも増して晴れている日なのに対岸が朧ろげにしか映らない。太陽が頭上を通り過ぎてもまだ辿り着かず、まだ目的地にも達していないのにとうとう僕の脚は疲労を訴えだした。
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自ら休憩を打診するのは気後れする、と意地を張ってさらに歩き続けること数時間。ようやく思い出したように巨体が歩みを止めて「そろそろ補給をとるか」とその場に腰を下ろした。僕は必死で疲労を隠しつつ、むしろ気が早いなとでも言いたげな顔で座ろうとしたが、脚が引きつって体勢を崩してしまい、尻もちをつく形で塩の地面に倒れ込んだ。
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「無理すんな」
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HID6は言葉少なめに告げて、背嚢から食事の入った容器を取り出すと二の句を続けた。
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「お前は初めてにしてはついてこれている方だ。経験者でも文句の多いやつはいた」
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「こういう一緒にやる仕事って何回もやったことがあるのか」
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見透かされていてもなお余裕を保っていそうな態度を崩さず問いかける。彼は渋い顔をして言う。
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「何回もある。むしろ一人でやる方が少ない。二人だけじゃなくて三人とか四人の時もある。数が多ければ多いほど特に危険だ」
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「持って帰るものが重くて多いとか?」
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どうやら的外れな返事をしたらしい。食事を含んだまま一転、薄笑いをして「それもあるがそうじゃねえ」と切り返された。「数が多い時は敵も多い。大抵は誰かが帰ってこられない」
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淡々とした物言いとは裏腹に僕の背筋はたちまち凍りついた。HID39をさらに獰猛にしたような輩がたくさんいるということだ。言われてみれば、戦略的な理に適いすぎている。先に相手を殺してしまえば物資を奪い取れるだけでなく、競合他社の標準入力インターフェイスを減らすことができる。あまり想像したくはないが、接続可能なインターフェイスを完全に失ったシェルターは地上世界に対していかなる操作も行えない。センサ頼りの受動的な分析しかできない。そのセンサさえも一旦物理的に壊れでもしたら一巻の終わりだ。他社との競争において致命的な不利を負うのみならず、情報体の長期的生存をも危うくなる。
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「これ、かなり聞きづらいことなんだけど……」
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食事の手を止めておずおずと尋ねる。
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「僕たちは、勝っているのか? その、競合他社に」
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背嚢に空いた容器を片付けていた巨体が一瞬固まったように見えた。少し待っても回答はない。なんだかきまりが悪くなり、僕は急いで自嘲を混ぜ込んだ。
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「いや、僕はつい前回、あっさり負けちゃったけど」
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「おれたちには分かりっこないさ。聞いても教えてくれないからな」
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HID6が立ち上がったので僕も慌てて残りの食事を片付けて背嚢に突っ込んだ。「だが、負けたってどういうことだ。戦って生き残ったのか」金属製の背嚢を慎重に背負い込みながら首を振る。「戦ってない。ブルーの作業服を着たやつが気まぐれで見逃してくれただけだ」こんなふうに言うと侮られるかもしれないが、思わず吐露したくなるほど悔しい事実だった。意外にも彼は白い歯を見せつけて笑った。「気にするな。今度、ブルーの連中にお前を生かしたことを後悔させればいい」
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それからの道のりはうってかわって退屈しなかった。補給中の会話で打ち解けられたのか、ぽつぽつと会話を交わす雰囲気になったのだ。競合他社はそれぞれ違う色の作業服を身に着けていて、ブルーもいればイエローもいるという。一度、レッドの服を着たやつを見つけたかと思いきや、それは殺したやつの血で染まっていただけだったなどと粗野な武勇伝を聞かせてくれたりもした。逆に、競合他社の相手から見れば僕たちは「オレンジのやつら」ということになる。
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