diff --git a/content/post/論評「ヒトラーのための虐殺会議」:流血なき血生臭さ.md b/content/post/論評「ヒトラーのための虐殺会議」:流血なき血生臭さ.md index 78c3c06..492bc35 100644 --- a/content/post/論評「ヒトラーのための虐殺会議」:流血なき血生臭さ.md +++ b/content/post/論評「ヒトラーのための虐殺会議」:流血なき血生臭さ.md @@ -16,7 +16,7 @@ tags: ['movie'] ## 流血なき血なまぐささ 本作は大別すると戦争ものの歴史映画に含まれるが、作中では一発の銃声も響かない。全編が会話シーンで占められているこの作品に戦場は現れず、したがって流血も起こりえない。仕立ての良い軍服や正装に身を包んだ高貴なる男たちの物語だ。 -しかしながら、会議中に語られる彼らの仕事ぶりの背後には血なまぐささが色濃く漂う。捕虜やユダヤ人の「特別処理」について報告する将校の裏には死体の山が、アーリア民族の財産を守るべく様々な手段を講じたと語る官僚の裏には飢餓と貧困が、まざまざと垣間見える。 +しかしながら、会議中に語られる彼らの仕事ぶりの背後にはとてつもない血なまぐささが立ち込めている。捕虜やユダヤ人の「特別処理」について報告する将校の裏には死体の山が、アーリア民族の財産を守るべく様々な手段を講じたと語る官僚の裏には飢餓と貧困が、まざまざと垣間見える。 視界には机と人とグラスしか映らなくとも、我々は一連の台詞から酸鼻極まる光景を連想できる。時に人間の想像力は生半可な写実を容易に越える。観る人が観れば、鉤十字の旗の下にどす黒く染まった血の海が骸とともにやがて固まり、隆起した血の山脈を築く様子さえ思い浮かぶだろう。